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マネジメント

50年前の「財界四天王の非常事態宣言」に見る企業の社会的責任・EGS・SDGs

楠木建の「経営知になる考え方」

EGSやSGDsは昔からある

 古い話だが、『文藝春秋』1974年1月号に「財界四天王の非常事態宣言」という座談会の記事がある。今改めて読むと、これが実に面白い。

 テーマは企業の社会的責任。EGSだ、SGDsだ、サステイナビリティだと騒がしい昨近だが、企業が社会的存在なのは今に始まった話ではない。

 オイルショックと狂乱物価の真っただ中、経済四団体のトップ植村甲午郎(経団連会長)、木川田一隆(経済同友会代表幹事)、桜田武(日経連代表常任理事)と永野重雄(日本商工会議所会頭)のが激論を繰り広げている。

歴史は繰り返す

 何が面白いかというと、半世紀前の1974年に、現在とほとんどまったく同じ話をしているところだ。

 「ヨーロッパでは企業の社会的責任が注目を集め、イギリスの経団連は企業行動基準をつくっている」と言う植村に、桜田が反応する。

 企業の社会的責任には多少誤解があって、あたかも財団をつくって寄付することだといわんばかりの風潮もあるんですが、やはり社会的貢献の本道は別でしょう。(中略)企業の社会に対する貢献度をはかる目安はいくつかあるし、その度合いを数字で示すことだってできるんです。

 まず第一は税金ですね。企業の利益の半分以上が税金になるんだが、これがなきゃ、道路も港湾もできゃしない。関税・所得税・地方税をうんと納め、従業員一人当たりの税金の高い者、あるいは使用総資本に対する税金の高い者をもって貢献度の高い企業とする。これは業種によって違いますが、同じ業種ならこれではっきりする。

 これに対して、木川田が懐疑的な意見を述べる。企業の目的が時代とともに変わっている。

 かつては競争原理と市場原理だけで社会の発展に自然と調和した。しかし時代は変わった。社会性を加味した経営ルールが必要になっている――。

競争原理と市場原理

 桜田は真っ向から反論している。

あなた、電気事業は地域独占で、非常に限定された競争しかないけどネ(注:木川田は東電社長、桜田は日清紡績社長だった)、国民経済運営から見ると、競争原理が必要なんだ。マズイものは競争原理と市場原理でどんどんツブれる、というあり方が大事なんですよ

 木川田は「これが、この人の持論でね(笑)」と受け流すが、桜田は追い打ちをかける。

 いや、あなた方には、その経験がないから。実際にやってごらんなさい。どこかで点をつけて、おまえは社会的に貢献しないからやめなさいと、そんな等しからざる扱いはできんですナ。

 ぼくらの繊維業ほど数の多いものはないが、いったい国家権力なり行政指導なりで、そんな扱いができるだろうか。そうではなく、やはりいろんな競争原理でもって、国民経済に貢献できない仕事だんだん廃業せざるを得ない経済体制で行くほかないでしょう。

 「社会性を重んじる経営問題が出てきている。それをぼくはルールといい、企業目的というんだな」と言う木川田に対して、桜田は「ぼくは、それは社会性というより、経済法則そのものの中に組み込まれなきゃダメだっていうんだ」と主張し、議論は平行線のまま終わっている。

 桜田に軍配を上げる。サステイナビリティはもはや実需。社会性を無視した商品や経営はもはや顧客が受け入れない。裏を返せば、顧客価値を真剣に追求する経営は、サステイナビリティの条件を自動的に満たすということだ。「サステイナビリティを重視するので、利益はほどほどに……」では、本末転倒だ。そういう人は株式会社を非営利組織に鞍替えして社会のサステイナビリティに邁進すべきだろう。

経営者が追い求めるべきこと

 儲けるだけが企業ではない。しかし、それでも結果の優劣を示す最上の尺度は長期利益にこそある――古今東西変わらない経営の本質にして原理原則だ。SDGsにしても、イの一番に来る目標は「貧困の撲滅」。誰も反対しない正論ではある。しかし、経営者たるもの、そんなことを言う前に、もっと儲かる商売をつくって、社員の給料をもっと上げるべきだ。それができずに、なぜアフリカの貧困が解消できるだろうかか。

 真っ当な競争があれば、長期利益は顧客満足のもっともシンプルかつ正直な物差しとなる。長期利益を稼いでいれば、結果として企業価値も大きくなる。おまけに法人所得税を支払って社会貢献もできる。長期利益はすべてのステークホルダーをつなぐ経営の王道だ。「ぼくは、それは社会性というより、経済法則そのものの中に組み込まれなきゃダメだっていうんだ」――半世紀前の桜田の本質を衝いた言葉にはいよいよ重みがある。

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