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健康

第61回 玉川温泉(秋田県) 痛いほど気持ちよい本物の源泉

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■日本一の湧出量

 「極楽、極楽」──。温泉に身を沈めた瞬間、このように思わずつぶやいてしまう人は多いと思う。ぬくもりのある湯に体をすっぽりと包まれる感覚は、温泉の最大の魅力のひとつだ。
 これまで湯船に浸かる人を何万人も見てきたが、湯浴みをしている人は、ほぼ100%幸せそうな顔をしている。温泉ほど多くの人を幸せな気持ちにさせるものは、世の中にいくつもないのではないか。しかし、秋田県の山懐に湧く湯治場、玉川温泉の湯は例外中の例外だ。
 玉川温泉の源泉が湧き出す荒涼とした地獄地帯を歩く。いたるところから、モクモクと白煙があがっている。地面に手を置いてみると温かい。

 とくに「大噴(おおぶけ)」という源泉湧出口から湧き出す100℃近い温泉のパワーには圧倒される。毎分9000リットル。1カ所から湧出する量としては日本一だ。グツグツ、ボコボコと熱湯が湧き出るさまはまるで地獄釜のようで、地球のすさまじいパワーを感じずにはいられない。
 源泉湧出口の周囲では、ゴザを敷いて横になっている人の姿をあちらこちらで見かける。まるで天然の岩盤浴である。
 実は、一帯には微量の放射線(ラジウム)を発する「北投石」という世界で3カ所にしか存在しないといわれる岩石の存在が確認されており、この北投石が人間の自然治癒力を引き出し、さまざまな病に効果があるといわれているのだ。一縷の望みをかけて、玉川温泉で岩盤浴に励む人は少なくない。

■日本屈指の強酸性

 さて、玉川温泉の湯船に身を沈める。その瞬間、低い声でうめいてしまった。他の入浴客も険しい表情で湯に浸かっている。そこは「極楽」ではなく、ちょっとした「地獄」だったのだ。
 玉川温泉の湯は、pH1.05という日本最高レベルの強酸性が特徴である。その威力は釘や包丁を一日源泉に浸けておくと、ぼろぼろになってしまうほど。だから、肌への刺激は半端ではない。肌にピリピリとしみて、体のどこに傷があるかがすぐにわかる。蚊に刺されたあとや、指のささくれでさえも見逃してくれない。
 その分、強力な殺菌力をもつため、水虫をはじめとした皮膚病に効果てきめんであるほか、人間がもともともっている自然治癒力を引き出してくれるという。
 玉川温泉の大浴場には、源泉を水で50%薄めた湯船のほか、水で薄めていない100%の源泉が注がれる湯船がある。湯治客の多くが、身動きをせずにじっと湯に浸かっている。私も見習って100%源泉の湯船におそるおそる体を沈めて、静かに目をつぶった。
 最初は酸性泉特有のピリピリとした痛みが走るが、体がなれてくると、徐々に気持ちよさに変わっていくから不思議だ。痛いけれど、気持ちいい。体のくたびれた細胞が温泉の刺激を受けて、生命力を回復していくような感覚。「イタ気持ちいい」という意味では、足つぼマッサージなどとちょっと似ているかも。

■「心のつながり」を感じる湯治場

 これまで経験したことのない気持ちよさにうっとりしていると、一人のお年寄りが湯船からあがろうと立ち上がった。足腰が弱いのだろうか、足元がおぼつかず、湯船からあがるのに手間取っていた。すると、隣にいた入浴客がとっさにお年寄りの体を支えて、湯船から出るのを手伝ってあげた。
 あとで「あのお年寄りはお知り合いですか?」と手を差しのべた入浴客に聞いてみると、「いいえ。ここで湯治している人間はみんな家族みたいなものだからね」。玉川温泉をはじめとした湯治場には、数週間、数カ月滞在する湯治客が少なくない。「湯治場には心のつながりがある」ということを実感させられる体験だった。
 玉川温泉は「地獄」ではなく、まさに「極楽」である。大地のパワーによって身体を癒してくれるだけでなく、心をも癒してくれる温泉地である。

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