■「美肌効果」のある4つの泉質
テレビの温泉番組を観ていると、「美肌の湯」と呼ばれる温泉がよく登場する。タレントやレポーターが湯船に浸かりながら「肌がスベスベになって生き返るようだわ」と感想を述べている。
こうした美肌の湯は、「女性客にアピールしたい」という宿側のねらいと、「美肌という言葉を使うと視聴者にウケが良い」というテレビ局側の思惑がからんでいる場合があるが、実は、首をかしげたくなる例もある。
「美肌の湯」として紹介される温泉の中には、湯を循環濾過して使い回し、塩素などの殺菌剤を投入しているものもあるからだ。塩素はプールの殺菌などにも使われる薬品で、必要以上の濃度が投入されると、肌に悪影響を及ぼす可能性もある。「美肌の湯」に浸かったにもかかわらず、肌を傷めてしまうこともあるのだ。肌に良い泉質であっても、源泉かけ流しでなければ、十分な美肌効果は期待できない。
美肌効果がある温泉の泉質は、大きく分けて4つある。硫黄泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、そして、pH値が7.5以上のアルカリ性の湯だ。一般にpH値は高ければ高いほど、肌がスベスベになる。
■「美肌の湯」は入浴法に注意
これらの泉質は、毛穴の汚れや不要な角質を取り除く「乳化作用」をもつといわれる。極端なことをいえば、石鹸やボディーソープのような役割を温泉が果たしてくれるのだ。
温泉に浸かったあとに、タオルでゴシゴシと体を入念に洗う人をよく見かけるが、実は、肌にとってはあまり良いことではない。
温泉の美肌効果によって、すでに汚れがとれやすい状態になっているので、強くこすりすぎると、刺激が強すぎて肌を傷めてしまうケースもある。石鹸やボディーソープを手にとって、そのまま素手でこすれば十分なのだ。
また、入浴後にシャワーや水道水で体を洗い流す人もよく見かける。しかし、これも美肌のことを考えれば正解ではない。温泉成分は、入浴後も肌に浸透していくからだ。また泉質によっては、皮膚の表面に膜をつくり、保湿する効果もある。洗い流してしまっては、せっかくの美肌効果も半減してしまう(ただし、強酸性の湯など刺激の強い湯は洗い流したほうが良い場合もある)。
■神社から湧き出す「神の湯」
鹿児島県の北西部に位置する山峡のいで湯、紫尾(しび)温泉も「美肌の湯」として知られる。数軒の温泉宿が集まる小さな温泉地の中心にある区営の共同浴場は、「神の湯」と称される。
そう呼ばれるのは、浴場の裏手にある紫尾神社の社殿の下から温泉が湧き出しているからだ。まさに神様からの授かりもの。ありがたい温泉なのだ。
神社の社殿を模した木造の建物は風格が漂っている。浴室に入ると、ほのかに硫化水素臭(ゆで卵のようなにおい)が漂う。
2つに仕切られた湯船は小さいほうがかなりのアツ湯、大きいほうがやや熱め。わずかにエメラルドグリーンを帯びた透明湯がかけ流しにされている。一見シンプルだが、よく見ると黒色の湯の花が舞っている。白色や茶色の湯の花は多いけれど、黒色はめったに見られない。 約50℃の源泉は、強アルカリ性単純硫黄泉。まさに美肌効果に長けた泉質だ。その特徴は、ヌルヌルスベスベとした肌触り。まるで石鹸を溶かした湯の中に浸かっている気分になる。いかにも肌に効きそうだ。
これに似た肌触りの湯は、山口県や九州の一部の地域に分布している。「スベスベ」くらいの湯は全国各地で入ることができるが、「ヌルヌル」とまで感じる温泉にはめったに出合えない。pH9.4という強アルカリ性と、硫黄を多く含んだ温泉成分の影響だろう。
一緒に入浴していたおじいさんは、車で2時間もかけて通っているという。「うちのかあちゃんは、『紫尾の湯がいちばん肌に効く』と言うんだよ。『60歳を超えたら大差ない』とは口が裂けても言えないけどな」と言って笑った。女性の美肌へのこだわりは、いくつになっても変わらないようだ。