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人間学・古典

第21回 「危急存亡の秋」諸葛孔明の義

経営に活かす“十八史略”

 歴史上で人気のある人物には、

  「利」ではなく「義」を選ぶ

 タイプが少なくありません。
 彼らは富、異性、権力といったものよりも、人としてこう生きるべき、という規範に忠実です。
 前回、取り上げた南宋の文天祥(ぶんてんしょう)は、敵である元(げん)から高い身分で取り立てることを約束されたにも関わらず、それを断って殺されました。命よりも規範の方が大事なのです。
 かの有名な諸葛孔明(しょかつこうめい)も、同じく「人の道」に生きた人物でした。
 三国時代、劉備(りゅうび)が亡くなった後、出来のよくない跡継ぎを補佐しつつ、蜀(しょく)の宰相としての職務に全力を傾けていた諸葛亮(しょかつりょう)孔明(こうめい)は、漢王朝を再興させるという劉備との約束を果たすために、いよいよ魏(ぎ)を伐(う)つべく兵を挙げる決断をしました。
 出発にあたり、孔明は後(こう)皇帝に意見書を奉ります。
 「今、天下は蜀・魏(ぎ)・呉(ご)の3つに分かれていますが、なかでもわが益(えき)州の地はもっとも疲弊しています。危急存亡の秋(とき)であります。
 どうぞ陛下には耳を大きく開いて、忠義の臣が諫言する道を塞がないようにしていただきたいのです。
 宮中と政府とは一体たるべきもの。善を賞し、悪を罰することに違いがあってはなりません。
 もし、不正をはたらいたり罪科を犯す者があったり、忠義善良な者があったりしたならば、担当の役人に命じて、その刑罰恩賞を論じ、それで公明正大な政治を天下に明らかにすべきです。
 賢臣に親しみ小人(しょうじん)を遠ざけたことが、前漢が興隆した原因であり、反対に小人に親しみ賢臣を遠ざけたことが、後漢の国運を傾け衰退させてしまった原因です。
 私はもともと南陽(なんよう)の地で農民をしていた一介の平民でした。この乱世にあって、どうにか命をつなげられさえすればいいと思い、諸侯に仕えて名誉や出世を求めようとは思っていませんでした。
 ところが先帝(劉備)は、私が卑しい身分であることなど気にもなさらず、わざわざご自分から高貴の身を屈して、私の粗末な家に3度もお尋ねくださり、私に当世の問題についてお尋ねになりました。
 このことに深く感激した私は、先帝のために奔走することをお約束したのです。
 先帝は私の遠慮がちなことを知っておられましたので、ご臨終の際、私に国家の大事を託されました。
 このご遺命を受けてからこのかた、朝早くから夜遅くまで、期待に背いて先帝の御名を傷つける結果となることを恐れ、心をくだいて努力を重ねました。
 だからこそ、5月には濾(ろ)水を渡って、孟獲(もうかく)率いる南中(現在の雲南省周辺、または南方のミャンマー北部)を平定するために未開の地に分け入ったのです。
 今やすでに南方の地も平定し、兵も武器も十分整いましたので、これから三軍を励まし率いて、北の方、魏を伐(う)ち、中原(ちゅうげん)を平定しなければなりません。
 漢の王室を復興し、旧都長安(ちょうあん)に凱旋することこそ、私が先帝のご恩に報いて、陛下に忠誠を尽くすために私に残された責務であります」
 諸葛孔明が戦争をする理由は、漢室の復興という先帝との約束が第一でした。
 しかし、この約束が無かったとしても、蜀を守るためには魏を伐っておかねばならなかったのです。
 孔明が世を去った後の蜀は確実に弱体化する。攻められたら滅びる可能性が高いと孔明は見ていたでしょう。自分が生きている間に、その脅威を取り除いておく必要があると考えていたものと思われます。
 だからこそあえて兵を起こしたのです。しかし、結局はうまくいかず、孔明の死後、魏にとって換わった西晋(しん)によって蜀は滅ぼされてしまいました。
 戦わずして勝つのが最善策ですが、どうしても戦わねばならないときに逃げるのは最悪の愚策です。孔子(こうし)は、
 「義を見て為さざるは勇無きなり」
 (正しいか否か、道理から考えてみて為すべきことをしないのは、勇気が無いということである)
 と言いました。
 孔明は魏に勝つことは難しいと分かっていたでしょうが、先帝との約束、蜀の将来を考え、勇気を奮って戦う道を選択したのです。
 彼は最後まで戦い、そして戦地の陣営で病没しました。知謀に富むだけでなく、仁義を貫いた人だったのです。

  「義」に生きる人物は企業にとって宝

です。そんな人物を見つけたら、劉備のように「三顧の礼」で迎えねばなりません。

 
 
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