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採用・法律

第74回 『副業禁止ルールに違反していた従業員,解雇できますか?』

中小企業の新たな法律リスク

 工作機械メーカーを経営する石川社長が,ある従業員を解雇したいと賛多弁護士に相談に来られました。石川社長によると,その従業員の日々の言動に問題があり,会社で禁止していた副業もしていたとのことですが…。

* * *

石川社長:先生,今日は,従業員のことでちょっと相談がありまして。

賛多弁護士:どうされましたか?

石川社長:入社7年目になる従業員なのですが,業務への姿勢に色々と問題があって,会社のルールにも違反していたため,経営会議で辞めてもらおうということになりました。しかし,人事担当者から本人に話したところ,本人は退職するつもりはないと言ったようなんですよ。会社としては,本人が反省もせず会社に居続けるなら,懲戒解雇でも良いと思っています。

賛多弁護士:社長,ずいぶんご立腹のようですね。その従業員がしたことをお聞かせいただけますか。

石川社長:はい。その従業員は,入社以来,結構頑張ってくれていたので,1年くらい前に営業部の副部長に抜擢したのです。営業部では,福井取締役が部長をしていまして,彼がその従業員に手を焼いているんですよ。指示になかなか従わないようなのです。

賛多弁護士:なるほど。具体的にはどのようなことがあったのでしょうか。

石川社長:色々です。福井が打ち出した営業方針に,反対意見を言ったりですねえ…。ついこの間は,私にまで「福井部長の方針では営業はうまく行かない」などと直談判してきたんです。部下は上司の命令に素直に従うべきでしょう。福井も,やりにくそうです。

賛多弁護士:なるほど,福井さんも大変なのですね。ところで,その従業員は,意見を強く言うようですが,最終的に指示に背いて仕事をしないという状況なのでしょうか。

石川社長:いえ…そこまでではないようです。まあ,仕事はできるんです。 何というか,日々の言動を見ていると,要するに我が社に合わないと言いますか。あと,何より問題なのは,我が社は副業を禁止しているのに,その従業員は趣味のプログラミングで月3万円程度の収入を得ていたようなんです。このルール違反は,絶対に見過ごすわけにいきません。

賛多弁護士:そうですか。因みに,上司の福井さんから見て問題と思われているその従業員の言動について,何かメモなどは取られていますか。

石川社長:いや~,福井も忙しいですからね,いちいちメモなんて取っていられないですよ。でも,副業のことは,本人が同僚へ話していたようなので,隠せないはずですよ。

賛多弁護士:では,副業に関して,本人の貴社での仕事ぶりに何か影響が出ていたということはありそうでしょうか。副業を深夜や休日にすることで疲れがたまっていたとか。

石川社長:いいえ,特にそんな話は聞いてませんけれど。

賛多弁護士:そうですか。今日のお話を伺う限り,会社から「辞めてくれ」と言う普通解雇は難しいように思います。制裁罰の極刑に当たる懲戒解雇はさらに難しいでしょう。

石川社長:んー,納得いきませんね。上司に盾突いて困らせているうえ,何より副業禁止のルールに違反しているのに,辞めさせられないのでしょうか。

賛多弁護士:まず,上司の福井さんへ反対意見をはっきり言う点についてです。その従業員のコミュニケーションに課題はあるのかも知れません。ただ,意見をはっきり言いながらも最終的には指示に従っているようですし,今回の件で業務命令違反があるなどとして,解雇をすることはできないと思われます。
あと,副業についてですが,その従業員がしているプログラミングの副業は,貴社の業務内容とは関係がなく貴社の利益を害することもありませんし,それほど労力を割いておらず,貴社で勤務することにも特に支障はないようです。すると,たとえ貴社のルールで副業が禁止されていたとしても,その従業員の副業の態様では,懲戒解雇はもちろん,普通に辞めさせること(普通解雇)も法的には難しいです。

石川社長:副業禁止という会社のルールを破っているのに,許すべきなのでしょうか?

賛多弁護士:貴社のように,副業を制限するルールを置いている会社は少なくないのですが,実は会社が従業員の副業を自由に制限できるわけではないのです。仮に,従業員が副業することで疲労が蓄積して会社の勤務に支障を来しているとか,副業先が競業他社のため会社の利益を害するとかの事情があれば,その副業を制限することはできます。しかし,今回の件では,こうした事情もないようですので,そもそも,その従業員の副業を貴社が制限できる場合に当たらず,すると,副業禁止ルール違反を理由とする解雇も裁判などでは違法と判断される可能性が高いのです。

石川社長:副業禁止というルールがある以上,違反した従業員には当然に解雇や懲戒ができると思っていました…。

賛多弁護士:今回の件,現状,社長や福井さんが対応に苦慮される部分もあると思われますが,お話を伺う限りでは,その従業員が貴社の企業秩序を乱しているということはなさそうです。寧ろ,本人は副部長に抜擢されて頑張ろうと必死なのかも知れません。まずは,双方に不信感が生じないようコミュニケーションをしっかり取っていただくことが大切であるように思います。

* * *

1.普通解雇と懲戒解雇
意思表示によって雇用契約を終了させる方法には,①従業員からの一方的な解約(辞職,退職),②合意による解約(合意退職),③会社からの一方的な解約(解雇)があります。従業員からの辞職(①)は原則として自由であるのに対し,会社からの解雇(③)は法律上厳しく規制されています。
普通解雇は,能力不足や適格性の欠如,職場規律違反,経営上の必要性等を理由として行われる解雇ですが,その適法性は厳しく判断されますので,例えば「コミュニケーションの取り方が社風とちょっと合わない」程度では違法無効な解雇となります。懲戒解雇は,職場規律違反への制裁罰である懲戒処分の極刑に当たり,普通解雇より大きな不利益を従業員に与えるため,普通解雇より厳しい法規制に服することになります。

2.従業員の副業
従業員には,労働時間外の私生活における自由や,職業選択や営業の自由が保障されています。したがって,雇用主である会社が,一律・無制限に従業員の副業を禁止することはできず,会社側に必要性がある場合に一定の制限を課すことができると解されています。
従業員の副業を制限できる場合について,厚生労働省「モデル就業規則」(令和2年11月版)には,①労務提供上の支障がある場合,②企業秘密が漏洩する場合,③会社の名誉や信用を損なう行為や,信頼関係を破壊する行為がある場合,④競業により,企業の利益を害する場合,が挙げられています。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 加藤 佑子

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