小田社長の経営する会社は、埼玉県で加工食品の製造・卸売業を行い、従業員が300人を超える中堅企業です。小田社長は、最近目にした食品偽装、産地偽装のニュースを見て、漠然とした不安を感じています。
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小田社長:相変わらず、企業不祥事のニュースが絶えないですね。我社は、ここ数年業績が良く、従業員もだいぶ増えてきたので、そういった不祥事が起きないか漠然とした不安を持っています。
賛多弁護士:不祥事が明らかになると、その会社が長年にわたり培ってきた信用を一瞬のうちに失うこともありますからね。そういえば、社長の会社は、従業員が300人を超えているので、令和4年6月1日から、公益通報者保護法の改正によって、「公益通報対応業務従事者」を定め、「内部公益通報対応体制」を整備する義務が課されますよ。
小田社長:「公益通報対応業務従事者」、「内部公益通報対応体制」って何ですか?
そういうのは大企業の話で、うちみたいな中堅・中小企業は関係ないと思っていました。
賛多弁護士:いいえ、関係あります。そもそも、公益通報者保護法は、労働者が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるかという制度的なルールを定めた法律です。
最近も社会問題化する不祥事が後を絶ちませんが、それらの不祥事の多くが内部告発により判明していると言われています。そこで、公益通報者保護法が改正され、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、令和4年6月1日から、①公益通報を受け、その通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定め、また、②公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制(内部公益通報対応体制)を整備することが義務付けられました。ちなみに、労働者数が300人以下の事業者は、これらは努力義務とされています。
小田社長:そうなんですね。我社でも早速、準備に取り掛からなければなりませんが、具体的にどうしたらよいのか...見当もつきません。
賛多弁護士:心配ご無用です。私が申し上げた事業者のとるべき措置については、内閣府の「指針」とその解説が公表されています。
(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/)。
それらには、例えば、内部公益通報対応体制の整備について、(1)部門横断的な体制を整備するためにとるべき措置(内部公益通報受付窓口の設置等)、(2)公益通報者を保護する体制の整備(不利益な取扱いの防止に関する措置等)、(3)内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置(労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置等)について、具体例も示しながら詳細に説明されています。
小田社長:なんだか大変そうですね。
賛多弁護士:私もお手伝いさせていただきますから、一緒に御社の内部通報制度(内部公益通報対応体制)を作りましょう。実効性のある内部通報制度を作ることは、御社の自浄作用を保ち、不祥事の芽を摘むだけでなく、消費者や取引先の信頼を高め、企業価値の向上につながりますよ。
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公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)は、令和2年6月に成立し、令和4年6月1日から施行されます。この改正では、上記に記載した点以外にも、保護される通報者に退職者や役員が追加される、公益通報対応業務従事者に守秘義務が課される(違反に対しては刑事罰)、保護される通報対象事実を追加するなど幅広い改正が行われています。賛多弁護士も述べているように、実効性のある内部通報制度を整備し,運用することは,その企業の信頼を高め企業価値の向上にもつながります。内部公益通報対応体制の整備が努力義務にとどまる労働者数300人以下の会社でも、内部通報制度の整備を積極的に検討されてはいかがでしょうか。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本 浩史