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第140話 《風格あるミシュランの三ツ星レストランに格付けされる福岡の鮨店》行天@福岡市

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

 『鮨行天』との出会いは、東日本大震災後にかけた一本の予約の電話にあった。福岡でのコンサルティングが予定より
かなり早く終わった私は、前から行きたかった『鮨行天』に予約を試みた。しかし、評判の店のようで満席で、あきらめたのである。

 

 しかし、一時間くらいして、キャンセルがあり、店をまだお決めになっていないのであれば
席を用意できるという思いも寄らぬ申し出があった。

 

 その夜、鮨職人行天健二という人間に魅力を感じて、私は、会員向けの定期的な
勉強会を実施するために通い続けることにした。

 

 それからしばらくして、『鮨行天』はミシュランのガイドブックの三つ星に格付けされた。

 

 2019年、久々に「ミシュランガイド福岡」が発売され、再度、三つ星レストランに格付けされた。

 

 『鮨行天』に一回行っただけではわかる由もないのだが、炊き方、温度、酢の加減、塩分、握りの加減、など
毎回、シャリの状態を変えて、握りのうまさを追求している。

 

 『鮨行天』におけるシャリの追求は、常連の客人にとって『鮨行天』における楽しさのひとつである。

 

 シャリがおいしく感じるために重要な役割を果たすのが唾液のアミラーゼだ。

 

 シャリがばらける(解けていく)と良いのは、咀嚼とともにアミラーゼが
米粒全体に絡み、甘みを引き出すからだ。

 

 大衆店では基本的に寿司酢に砂糖や“グルソー”(グルタミン酸第一ナトリウム、うまみ調味料)を入れる。
しかし、『行天』のような高級鮨店はシャリの合わせ酢に砂糖すら入れない。

 

 なぜなら、ネタのすばらしさと握りの技術の高さで、十分甘さや旨さを感じさせることができるからだ。

 

 ちなみに、下顎の犬歯の下の部分を指で押してあげると唾液が出てくるので鮨がおいしくなる。
『行天』でマグロを切り始めたら、ぜひ下顎おしてみて欲しい。シャリがおいしく感じるはずだ。

 

 また、よく鮨店に行くと湿らせた木綿の白い布が置いてあるが、『行天』には白い湿らせた布はない。
あるのは、フィンガーボールと分厚いおしぼりが供せられている。

 

 さすがは世界から客人が訪れるだけあると言いたいが、実は、リンガーボールとおしぼりは、
シャリに重きをおいているひとつの現れだと私は考える。

 

 鮨は指先で感じるテクスチャーにもうまさがある。

 

 ネタの堅さや柔らかさや施した包丁によって握り加減を変えている。

 

 例えば、握りを指で持ち上げたときに、今日の烏賊は身がしっかりしているな、今日の烏賊は
ねっとりしていてねかせてあるな、など感じることができるのだ。

 

 だから握りは手で握り立てを食べるのが良い。

 

 また、シャリは時間ともに温度が下がり、シャリの状態が変化する。酢の印象も変わるわけで、
ネタとの相性も考えねばならない。

 

 大衆店では人肌の温度のシャリにこだわっている寿司屋もあるが、一流店では
ネタにあわせてシャリの温度も追求している。

 

 『行天』では、客人の目の前でシャリを切る。切り立ては酢がシャリに浸透していない。
その酢の印象が強いがマグロと大変相性が良い。

 

 話に夢中になって目の前に置かれた握りを放置するというのは温度に気遣う鮨職人に、自分は鮨のおいしさが
わかないと言っているようなものである。そういう客人が少ないのも『行天』である。

 

 説明が長くなったが、2020年9月の訪問の鮨を見ていこう。

 

 『鮨行天』の流れはお酒を楽しみながら肴を食べた後、極上の握りを提供します。

 

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 お酒はお任せにしている。女将がお料理の流れに合わせて提案をしてくれ
コンサルティングのための勉強になるからである。

 

 この日のスタートは茶豆。

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あわせるお酒は醸し人九平次 Human。

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続いて、剥きたてのイクラ、熊野灘のモウコウハタと続く。

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白身や蟹は、有名店が仕入れる京都の錦市場の某店からトビ(ピンのピン)の魚が入る。

 

大きく切りつけたツブ貝

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石もずくが続いて

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前半の山場のお料理に移る。少し塩をした蒸し小浜のクロアワビだ。

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香りよく大変味わい深い鮑だ。

 

鮑の後、本日の食材、ハラカミ、藍島の車海老などを客人に見せ握りに入る。

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「本日からシャリが大きく変わった」と笑顔で目の前でシャリ切りする大将の行天健二氏が伝える。

確かに米のツブがとても大きな炊き上がりだ。

 

『鮨行天』の握りは多くの場合、クロマグロ(本マグロ)の蛇腹の部分の大トロからスタートする。

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提供しながら炊き方を変えたのでもちもちのシャリになったと付言する。

酢はきつめになっている。

すばらしいクロマグロ特有の血の香りと追っかけて脂の旨さが広がる。

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『鮨行天』は豊洲の有名鮪仲卸『やま幸』からクロマグロからトビのマグロを仕入しているが、
いつ行っても香り、味わいとも裏切らない。

 

中トロは、噛み込むと口の中に脂が溶けて広がり甘さが広がり、持続する。

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口直しをかねて、しっとりした小鰭が供せられる。

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『鮨行天』は『すきやばし次郎』のように提供する順番がプログラムになっていて流れを重視している。

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続いて、鰤カマ丼、

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血の香りがじんわりと広がる赤身漬けと続く。

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そして、今年最高の出来という天草の赤雲丹が供せられる。

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雲丹の強烈な余韻もあるうち、甘い剣先烏賊の子烏賊が続き、

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由良の真鯵、

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ノドグロとテンポ良く続く。

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新作の料理の煮た鮪と中落ちの丼が提供され、最初に見せた藍島の車海老が続く。

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軽く炙ったクロムツ、

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茶碗蒸し、

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軽く〆た鰯が出てきて、名物の穴子になる。

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穴子は「煮上がりの穴子」で提供され、チーズのようなニュアンスがある。

ツメもうまい。

玉子焼きは帆立玉子焼きだ。

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そして、珍しい小柱巻きで今宵の劇場は終了した。

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客単価4~5万円。福岡で、この単価でお客様を入れられるのは『鮨行天』しかないだろう。

まさに旅をしても訪れる価値のある鮨店である。

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鮨 行天​​​
〒810-0014 福岡県福岡市中央区平尾1丁目2−12
電話 092-521-2200

 

 

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