「仕事を覚えて『そろそろこれから』と期待をかけた社員が辞めていく。どうすればいいのか、正直困っています。」知り合いの町工場の社長から、こんな相談を受けました。
話を聞いてみると、最近、仕事が大変忙しく「何より仕事が優先、納期を守る、品質を確保する」ため、社長自身も現場に入り作業をしているということでした。
まさに、小さな会社の慢性的な人手不足の現実です。
そんな状況の中、社長は早く現場の戦力として活躍してもらいたいと、入社2年目の社員を現場担当から営業担当に変えました。現場でモノづくりの知識や技術についておおむね理解したと感じたころでした。
彼は、お客様から「急な試作の依頼もこなしてくれて助かった」などの声もあり、とでも評判が良く、お客様の「ちょっと困った」という声にきめ細やかに対応していました。
「仕事に遣り甲斐を感じてくれている」と、私は思っていました。
そんな矢先、彼から「もう疲れました」と言われ、意外に感じて話を聞いてみると「現場がまったく対応してくれない」と言います。
「ラインがこんなに忙しいのに、なんでそんな小さな仕事を入れるんだ」と、工場長から怒られ、「現場に迷惑をかけてはいけない」と、なんと彼は工場のラインが止まったあとに会社に残り、自分ひとりで作業してお客様の対応をしていたと言うのです。
この町工場の社長は、当時のことを振り返り、しみじみと語りました。
「社長の私といえども現場で作業しなければ、お客様の要望に対応しきれない状況だったので、社内の現状を知り、気にしていながらも、何の手を打つことなく時間が過ぎていきました。
そんなある時『社長 話があるのですが・・・時間を取ってもらえませんか?』と言われ、後日、話を聞くと『もう限界です。会社を辞めさせてください』と言って頭を下げられました。いくら説得しても彼の決意は固く、3ヶ月後に会社を離れていきました。
一緒に働いてきた社員から『辞めたい』と伝えられた時、私は自分を完全否定されたような気持になり数日間落ち込みました。辞めると決意する前に、彼の気持ちを察知できず、どうにもできなかった自分を責めてしまうのです」
中小企業で働く人が辞める理由はどういったことからなのでしょうか?
給料の不満や家庭の問題などさまざまに考えられますが、離職率のダントツトップは「人間関係」なのです。しかも、経営者や上司との人間関係の不満が最も高い割合になっています。また、離職率が高いのは就職後3年以内です。(中小企業公開資料より)。ちなみに2位が給与へ不満、3位が働く時間へ不満と続いています。
社長や上司に不満を持って会社を辞める・・・。では、どんな時に社長や上司に不満を感じるのでしょうか?
人が不満を感じる要因を解決するヒントがありました。
デール・カーネギーの『人を動かす』(創元社)という本の中で記されている「人間関係を良くする方法」です。ここには、人間関係を良くするには、「相手に関心を寄せる」という原則が書いてあります。つまり、人は自分に関心を持ってくれる人を好きになるのです。
たとえば、私の体験でこんなことがありました、
「はい!社長」と月曜の朝、スタッフが真田庵の六文銭の刺繍が入ったお守りをプレゼントしてくれました。休日に夫婦でドライブをしていて見つけたということでした。
実は私は、戦国時代の歴史が好きで、NHKの大河ドラマを子どもの頃から観ており、特に日本一の兵と言われた真田信繁を取り上げた『真田丸』(2016年放映)が大のお気に入りでした。
プライベートで遊びに行った先で、スタッフが私のことを思い出し、わざわざ車を止めお守りを買ってきてくれたと思うと、「ありがたいな」という気持ちと、私の大好きなものを知ってくれていることに心から嬉しく感じました。
相手に関心を寄せることで人間関係がとても良くなる。一方で、相手に無関心でいると良好な人間関係を維持できなくなる。