日本の地方都市では、全国的な人口減少の問題が深刻化しています。しかし、そんな厳しい環境の中でも着実に成長を遂げている企業があります。その一例が、滋賀県甲賀市信楽町を中心に活動している地元密着型の工務店である森工務店です。
森工務店は、昭和18年創業で現在81年目を迎える企業です。熟練大工であり一級建築士でもある社長が率いる社員大工5名、女性スタッフ2名の小さな企業ですが、独自の戦略を駆使して年間新築着工棟数を毎年1棟ずつ増加し、現在10棟にまで増やすことに成功しています。今回は、森工務店の戦略を通じて、地方都市における持続可能な成長の鍵を探っていきます。
地域コミュニティとの連携強化
森工務店の成長の要因は、地域コミュニティとの強い連携にあります。客層は家庭菜園を楽しむ家族で、自然素材への意識が高い人々です。また地域への活動にも関心が高く、暮らしを楽しみたい家族と定めています。ただ家を建てるだけが目的ではなく、地域を含めた豊かな暮らしを実現したい方から選ばれる仕組みをつくり差別化を図っています。
差別化のポイントは、「モリノイエ」、「mori no studio」、「もりのビレッジ」という三つのプロジェクトを推進していることにあります。
これらのプロジェクトは、安全で健康的な住まいの提供、地域住民同士の交流の場の提供、そして畑での野菜づくりを通して、食文化の深化を目指しています。これにより、新規顧客と既存顧客、そして地域住民との関係を深め、長期にわたり信頼を築いています。
例えばmori no studioでは、「おさがりプロジェクト」を通じて、地域住民が不要な物を交換するイベントや、大工と一緒にDIYで家具を作るワークショップを開催しています。これにより、地域住民との絆を深めるとともに、森工務店のブランドを強化しています。さらに、SNSを駆使したマーケティングを行い、口コミによる紹介が新規顧客の獲得に大きく貢献しています。
森工務店の永続的な地域発展のための戦略
森工務店が永続的に地域の発展を目指して最も重要と考えているのは、顧客への徹底的なサポートです。新規開拓よりも、既存の顧客との関係を深めることに注力しています。特に2023年には「モリの会」を発足し、顧客である施主を有料で支援する組織を立ち上げました。
この会は、お客様との生涯の付き合いを前提とし、家を守り続けるために必要な作業のお手伝いをしたり、トラックや道具などの自社設備を貸し出したりする内容になっています。
これは、森社長が直接お客様を訪問し、大雨の時に裏山から湧き出る水の量が増えて不安で困っていることへの対応や、排水溝が枯れ葉で詰まって水が流れにくくなっている場合など、家のことだけでなく、日常生活の様々な問題に対応したいことを丁寧に説明し、納得いただけるよう対話を続けてきました。地域を守りたいという情熱と、永続的な関係づくりを願う社長の思いが客様から支持されています。
森社長は「当初、有料での支援を受け入れていただけるとは考えていませんでした。銀行にサポート費用が振り込まれるたびに責任の重大さを感じます」と語っています。
顧客との絆を深める活動
森工務店は、地域密着型の活動を通じて、顧客との強固な信頼関係を築いています。その一環として、毎年夏の終わりに開催している「moriのながーいなんでも流しそうめん」イベントでは、もりの会の会員が多く参加してくれました。さらに、お手伝いをしてくださる方々もおり、共に地域を作る仲間としての絆を深める場となっています。
また、定期点検の際には、建てた後のヒアリングを重視し、施主様との「よろず相談」を始めています。生活の中で生じるちょっとした困りごとは、連絡するまでもないと思われがちですが、これを放置せず、ヒアリングを通じて施主様の声をしっかりと聞くよう努めています。
今後、自社施工のお客様だけでなく、他社で建てた家に住む地域の方々も支援できるよう計画を進めています。これにより、地域全体の暮らしを支える取り組みを強化し、さらなる地域貢献を目指しています。
森工務店の取り組みは、顧客との絆を深め、長期的な関係を築くことで、人口が減少している地方都市でも持続可能な安定した成長を実現している好例です。
この戦略は、新規開拓に依存せず、既存顧客との関係を深めることで、顧客が営業マンの役割をしてくれる連続性のあるモノになりつつあります。長期的な視点で顧客と共に成長することが、持続可能な発展の鍵であることを示しています。