一 口に「できない社員」というが、そもそも彼らはなぜ仕事ができないのだろうか。私はよく飛行機のたとえ話をする。
「飛行機を操縦しなさい」
いきなりこう言われたら、たいていの人が面食らうだろう。なぜなら、操縦したことがないからだ。知識も経験もない未知のことを「やれ」と命じ られたとき、人は困惑する。何をどうしていいかわからず、途方に暮れてしまうのだ。「やる気があればできる」などと劇励されたところで、飛行機の飛ばし方 はわからない。
しかし、多くの上司がこのことを理解していない。だから、「なぜできないのか」「常識で考えろ」と頭ごなしに叱りつける。操縦方法を知らない 人に「操縦しろ」と罵声を浴びせているのと同じだ。叱られた当人は萎縮し、「自分にはとても無理だ」とやる気をなくしてしまうことになる。これをマネジメ ントといえるだろうか。無理難題をふっかけて人材を育成できるだろうか。
人間が行動できない理由はたった2つしかない。
第1の理由は、「やり方自体がわからない」場合。飛行機の操縦がこれに当たる。励まされようと叱られようと、知らないことはやりようがな い。
第2の理由は、「やり方はわかっているが継続できない」場合。「モチベーションを持続できない場合」と言い換えてもいい。
つまり、この2つのパターンさえ解決したなら、できない社員はいなくなる。これが行動科学マネジメントの考え方である。
まず、「やり方がわからない」社員に対しては、やり方を教える必要がある。
「仕事のやり方ならとっくに教えている」
あなたはそう反論するかもしれない。しかし、その反論を行動科学マネジメントの観点から検証してみると、途端に根拠がぐらつくことを思い知ら されるだろう。実は、「教えた」という上司に限って、正しいやり方を教えていないケースが圧倒的に多いのだ。
教える側はベテランだから、「仕事はできてあたり前」という意識を少なからず持っている。新人がつまずくと、なぜつまずくのか理解できない。 「あれだけ教えたのに何を困っているのだ」と苦々しく感じ、やがて「あいつは仕事が出できない」「やる気がない」というレッテルを貼ってしま う。
このような悲劇が生まれてくる原因は、「教えるべきことを教えていないこと」にある。上司がしっかり教えたつもりでも、実際には重要なポイン トを教えていないことが多い。上司や先輩は故意に教えなかったわけではなく、まさかそんなところに重要なポイントが隠れているとは考えてもみなかったの だ。教える側がベテランであればあるほど、このギャップは発生しやすい。「OJT」と呼ばれる新人研修で、このギャップに気づかないまま進められている場 合も少なくない。その結果、何もできない新人が現場に配属され、「なぜできないのか」と怒鳴られることになる。
このギャップをもう少し詳しく説明しよう。
ベテラン社員の場合、仕事の大部分は常識に属することだと思い込んでいる。その中には重要なポイントが隠れているのだが、ベテランの目では重 要性が見えない。「常識をわざわざ教える必要はない」と、無意識のうちに省略してしまうのだ。一方、つい昨日まで部外者だった新人は、業務の何たるかを知 らない素人である。先輩や上司はこの点を完全に見落として、具体的な業務の進め方ではなく、精神論やビジネス作法を教え込む。これでは、その日から業務を こなせるわけがないだろう。
やり方がわからない社員には、行動を具体的に分解して、リストに書き出すことが有効である。行動を分解することは決して難しくない。まず、分 解するべき行動を決める。たとえば、営業職なら商談の流れを分解してみるといいだろう。用意するものは文具店で売っている大きめの付箋。ベテラン社員が現 場でどんな行動をしているか、一つひとつ書き出していく。この作業はベテラン数人でやることが望ましい。そして、書き出した行動を実際の流れと同じように 並べ、清書して“コミュニケーションシート”を作成する。
このリストを渡せば、仕事内容は遺漏なく教えることができる。またこの方法は、やり方は理解しているが、つまずきやすい行動にも有効である。
- ホーム
- 行動科学マネジメント
- 第3話 部下が仕事ができない「たった2つ」の理由