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マネジメント

マキアヴェッリの知(11) 時代を見抜くものが生き残る

指導者たる者かくあるべし

 時代は変転する

 時局、時勢というものはめまぐるしく移りゆく。時代のトレンドと言ってもいい。年があければ古希を迎える筆者の人生を振り返ってみても、生まれたころは、まだ大阪の下町に米軍によって爆撃された工場群が朽ちて野ざらしとなっていた。経済白書が「もはや戦後ではない」と書いたのは三歳の時だ。高度経済成長がはじまり復興された工場はフル稼働で、街は煙突から吐き出される煤煙とスモッグに覆われていた。
 17歳の年に開かれた大阪万博は発展する日本の祝祭だったが、やがてバブルが弾けて、沈滞の時代が今に続く。
 時代を映すテレビCMのキャッチコピーをみても、この間に「オー、モーレツ!」の時代は、「モーレツからビューティフルへ」と180度流れが変わり、使い捨て消費が美徳の時代精神から、環境重視へと劇的にトレンドは変化した。
 組織、企業のリーダーも時代の変化に無関心ではいられない。時代についていけるかどうかが死活問題なのだ。
 このめまぐるしさは、現代だけのことかというとそうでもない。マキアヴェッリが生きた15・16世紀の欧州も政治、経済が激動していた。変動への対処によって国はつぶれてしまう。彼は言う。
 〈いつでもきまった手しか打てない人は、時局の動きにつれて脱皮することができない。時勢が変わって、それまでの方法が通用しなくなると、必然的に破滅するよりほか仕方がない〉

 変化をつかむ不断の努力

 ともに有能とされる国家、組織経営者でも、永続的成功をつかみとる者と破滅の道を歩む者とに分かれる。その差は時代の変化に適応できるかどうかだと、マキアヴェッリは言う。そんなことは誰でも承知のことだ。では、なぜ分かっていながら時代に合わせて進む道を変えられないのか。彼は次のように理由を分析する。
 〈第一に、生まれ持った性格には、どうしても逆らえない〉
 優柔不断、あるいは変化を好まない頑迷固陋さに起因する。それはもう、組織を率いるリーダーの資格に欠けるとしか言いようがないのだが、重大なのは次の指摘である。
 〈第二に、いったんある方法を用いて上々に成功した人物に対して、こんどは別の方法を採用したほうがうまくいくと信じさせるのは至難のわざだ。こうして、ひとりの人の運命は(同じ境遇にありながら)いろいろに変わってくる。時勢は刻々に移り変わるのに、それに対応して人はやり方を変えることをしないからである〉
 世のリーダーたちは自尊心が強い。それゆえに、自らの成功体験に酔いしれる。成功体験で得た果実が大きいほど、自尊心は雪だるま式に膨らんでしまい、いつの時代、どのような局面でもその成功体験を反復すれば乗り切れると過信する。あの時このやり方でうまくいったから、これでやりなさいと部下に指示しがちである。そして時勢の変化に取り残されるとんでもない読み違いをおかし組織を破滅に導く。その成功はその時勢下のある局面で成果をもたらしたに過ぎないのだという謙虚な自省の姿勢が求められるのだ。
 常に変化に敏感であれ。そして変化の本質をつかみ、時勢の流れに適切に対処する不断の努力をマキアヴェッリは世のリーダーに求めている。

 永続企業に息づく「不易流行」の精神

 たった70年の自分の人生を振り返っても気づくことがある。劇的な時代変化、トレンドのシフトは20-30年に一度起きるということだ。奇しくもこれは世代推移の動きに近い。親から子への世代の受け渡しは、長短はあっても25−30年サイクルだろう。世襲の企業、商店が親から子へと経営権を引き継ぐのは、時代変化への柔軟な対応の知恵でもある。前回触れたように、優秀な経営者のあとを凡庸な後継者が就いても持ちこたえられるが、それが二代続くとつぶれるというのは、このサイクルとも関係する。二代凡庸な経営者が続けば、時代変化についてゆけず、親の偉業を継ぐだけではジリ貧になるばかりなのだ。
 永続企業、世にいう老舗は、ただ古いだけでなく、〈いつまでも変化しない本質的な経営方針を引き継ぎながらも、変化する時勢に合わせて新しいものを取り込む〉、「不易流行」の精神が息づいているからこそ、永続し発展しているのだ。
                ◇
 年明けの次回からは、「不易流行」の経営を、中央、地方の財閥企業の歴史と実践例でさぐってみることにする。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ著 佐々木毅全訳注 講談社学術文庫
『世界の名著21 マキアヴェリ』会田雄次編集 中公バックス
『マキアヴェッリ語録』塩野七生著 新潮文庫
『社長のためのマキアヴェリ入門 鹿島茂著 中公文庫

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