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マネジメント

マキアヴェッリの知(10)組織永続の秘訣

指導者たる者かくあるべし

 世襲権力維持の条件

 このシリーズの2回目で書いたように、世襲で権力を継承した場合は、新たに権力を掌握した場合よりもその統治には苦難が少ない。その理由についてのマキアヴェッリの分析を再録しておく。


 〈なぜなら、それを維持するには、先祖伝来の秩序から逸脱しないようにし、諸々の出来事に対して適切に対処するだけで充分だからだ〉


 いかなる世襲の権力も遡(さかのぼ)れば英明な創業者がいた。苦難の末に改革者として君主(リーダー)の地位を築いた。その統治システムには、闘争を勝ち上がってきただけの知恵がつまっている。代を重ねるたびに改良が加えられたとしても、それもまた貴重な財産として積み重なっている。


 そうした知恵を踏襲し、〈伝来の秩序から逸脱しないようにする〉ことが、世襲権力を維持する条件だとマキアヴェッリは説く。
 もちろん世襲で組織を引き継いだ者でも、第二の創業者を自負する実力者もいるだろう。それでも長年にわたり培われてきた秩序を逸脱するなら、「新秩序」を掲げる新たな挑戦者を呼び込むことになるとマキアヴェッリは警告している。

 

 凡庸なリーダーも許されるのは二代まで

 マキアヴェッリの念頭にあった国家であれ、現代の会社であれ、世襲で組織を繋いでいく場合の悩みは、後継者がかならずしも聡明なリーダーだとは限らないということだ。凡庸な人物が後を継いだとしても、側近たちが先代の敷いたレールから逸脱しないように補佐することで危機は乗り越えられるということでもある。


 だが、それにも限界はある。凡庸なリーダーも一代ならいいが、さらに次の代もとなると、もはや組織はもたないだろう。マキアヴェッリは、著書の『政略論』でこう書く。


 〈卓越した君主のあとを受けて、迫力に欠ける君主が出たところで、国家はもちこたえていける。しかし、このような弱々しい国王が二代続いて位についたら、とてもその国は維持できるものではない〉


 そのためにも、後継者だけでなく、彼を支える側近も組織全体も創業精神を肝に銘じておく必要がある。そのツールとして社訓、社是を文字化しておくことが重要なのだ。

 

 

 先君の遺訓を生かせ

 人というものは、「改革」という言葉に弱い。凡庸な後継者ほど、知恵が働かないから、就任早々に「改革」の看板を掲げたがる。既成のシステムをよく検討もしないで効率が悪いと決めつけて変えたくなる。変えることで先代との違いを見せて得意となる。それによって求心力を高めようとする。


 知恵がないから、現実を無視して組織を組み替えたり、あるいは、組織の名称を変更するだけで「組織改革」と宣言したりする。さらに多角経営の名のもとに本業をおろそかにしたりするケースは多い。


 バブル景気の時代に、不動産や株取引にのめり込んで倒産した中小企業は身のまわりに数えきれないほどあった。筆者の友人で中堅鉄工所の二代目社長は、当時、取引銀行からの再三の勧誘にあいながらも、すんでのところでマネ―ゲームへの投資を思いとどまった。彼によれば、先代の父親からの遺訓「本業に精を出せ。あぶく銭の稼ぎに手を出したら必ず痛い目にあう」という言葉が思い浮かんだのだという。


 〈君主が権威を保っていくための方法を学ぼうとするなら、べつにあれこれと苦労に耐えなければならぬのではなく、ただ賢君の生涯を鑑(かがみ)としておのれの姿勢を正せばよい〉(『政略論』)
 友人は、創業者である父親という鑑をしっかりと持っていたのである。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ著 佐々木毅全訳注 講談社学術文庫
『マキアヴェッリ語録』塩野七生著 新潮文庫
『世界の名著21 マキアヴェリ』会田雄次編集 中公バックス

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