社会保険料の滞納をし始めた場合、どのようにするのがいいのかはケースによって選択肢が限られます。そしてどのケースでも徴収側は「保険料を納付している他の事業主との公平性を確保すること」を重視するということになります。つまり、どんな場合でもあなたの会社だけ優遇してくれることはないのです。
私が経営していた会社でも2月29日納付期限の社会保険料を1日遅れで3月1日に納付したところ、年金事務所厚生年金徴収課からお叱りの手紙が届き、「保険料を納付している他の事業主との公平性を確保するため」と書かれていたくらいです。
災害が原因で滞納した場合以外では、社会保険料滞納は3か月遅れているかどうかがひとつの分岐点になります。3か月以内の滞納、できれば2か月程度の滞納なら真摯に話をすれば納付の猶予をしてもらえます。ここで猶予する金額が百万円を超えているかどうかということが2つ目のポイントになります。百万円を超えていればより細かく、収支の状況を確認され、さらには担保提供までも求められます。そして、これらの書類は納付の約束が守られなかったときに差押えする資産を確定する作業の元資料として使われます。
一般的に社会保険料の滞納への役所側の取り組みは迅速に行われ、3か月をすぎても来所も電話連絡もしない事業主にたいしては突然その会社を訪問することもあります。いずれにしても3か月の滞納で特別徴収専門官へ報告され即回収への取り組みがされます。
遅れながら納付していたとしても、3か月滞納が続いていれば、不動産、売掛金、預金などへの差押えは不可避となりえます。税務署で法人決算申告書の内容確認を行われ所有資産を抽出するのですが、最近は、売掛金の内訳書で大口売先を確認。預金がどこの銀行のどこの支店にあるかをわりだし、 PipitLINQ(注1)などの預金照会でその動きを確認、毎月入金になる売先からの回収日を確認し、入金前にその顧客に売掛金の差押えをおこなうということがされています。
もちろん、これにより会社はいっきに倒産に向かいます。
だから、社会保険料滞納の初期段階(1か月滞納)では銀行融資に頼るか、納付の猶予を行うことが重要になります。もちろん納付の猶予より通常運転資金の銀行融資での対応のほうが資金繰り的にも楽なのですが、それだけで安堵してはだめで、毎月の社会保険料じたいを減らしたり、収益を上げたりすることが必要になります。ふつうの中小企業では社会保険料を減らすとは社員を減らすということであり、収益を上げるとは結果的に売上をあげることになります。これらがおこなわれなければ、一時的に解決したとしてもまた同じことになるのです。
面白いことに、企業の立て直しにおいて社会保険の滞納を忠告しても、役所がそんな冷酷なことをやるわけがないと社長に反論されることが多々あります。
遅れながら納付していたとしても差押えがされることがある現実をちゃんと認識しておいたほうが良い結果にむすびつきます。
(注1)
pipitLINQ(ピピットリンク)
行政機関が金融機関へ電子データによる預貯金等照会ができるシステム。
従来は預金照会は書面で行われていたが、pipitLINQの登場で迅速に照会ができるようになった。