我が国の企業の海外進出は戦後長期にわたって製造業が主役であった。戦後の復興期から1980年代後半まで、日本企業が海外進出する主な動機は「輸出拡大」、「現地生産化」、「安価な人材や原材料の確保」などであり、その中心となった業種は自動車、電機、鉄鋼、繊維などの製造業であった。
プラザ合意(1985年)以降も、海外進出の中心は製造業だった。円高やグローバル競争の激化をきっかけとして、多くの企業が直接投資による現地化、生産拠点移転を進めたがやはり中心は製造業である。2000年代以降は非製造業(サービス、小売、金融など)も海外進出を拡大したが、圧倒的にグローバル企業と言えるのはやはりいまだに製造業である。
しかし、ここにきて、その流れに大きな変化が表れ始めている。製造業中心の流れに変化が見られるのである。これまでもサービス業の海外進出成功例として、ユニクロやセブン&アイ・ホールディングスなどはあげられるものの数的にも金額的にも対製造業比で見ればわずかなものにとどまってきた。
この流れの変化のきっかけの一つは、アベノミクスによる観光立国政策によって、訪日外国人が急増し、日本のサービス業を体感することによって、そのクオリティの高さを評価して、認知度が急向上したことが背景にある。その一つの好例が外食産業である。味やサービス、加えてコストも含めて、訪日外国人を虜にしたのが外食産業であった。
外食産業においてもすでに先行して海外進出に成功した例はある。その代表には吉野家、味千ラーメン、サイゼリヤなどが挙げられる。ただし、味千ラーメンは日本の重光産業が中国企業にライセンスを与えて、その中国企業が中心に世界展開を行っている。また、吉野家も店舗数は900店と多いものの収益面では極めて苦戦している。サイゼリヤこそセグメント利益は110億円台とそれなりの水準ではあるが、中国・上海の1号店開店から20余年の歳月を要している。これはそもそも知名度が低かったために認知に時間を要したということであろう。
それに対して、F&LCでは進出後わずか数年で100億円の利益を上げるほどのスピードである。図はF&LCのセグメント利益を海外とそれ以外に分けたものである。当然、それ以外の大半は国内スシロー事業であるが、その他、京樽や居酒屋なども含んでいる。同社が海外進出を本格化したのはここ4-5年であるが、すでに100億円の営業利益を達成している。

同社は9月決算であるが、すでに公表されている2025年度の上期もセグメント利益は81億円と前年同期比83%増となっている。先に述べたサイゼリヤとの根本的な違いは、訪日外国人にもスシローは大人気で、しかも彼らはSNSでそのクオリティを全世界に発信するため、むしろスシローの海外進出を海外が待ち望んでいる状況にあるためである。
例えば、スシローの香港1号店の開店時の待ち時間は4時間だったというようなほど、まさに待ち望まれている状況が始まっているのである。そもそも海外と国内の1店舗当たりの売上高は、海外が国内の2-3倍と言われており、当然ながら収益性も海外が圧倒的である。当然収益性も高く売上高営業利益率は国内スシローの9.0%に対して、海外スシローは10.8%となっている。
ただし、海外はハイスピードで出店しながらのこの収益性の高さである。それに対して、国内の出店スピードはかなり低いものである。ちなみにEBITDAベースの売上高比は、国内の11.7%に対して、海外は17.5%と5.8%ptの差となっている。
その意味で同社は海外の成長をてこに、今後も急成長を続ける可能性が考えられよう。
有賀の眼
日本企業の海外進出のイメージは、これまでは完全に製造業中心であった。しかし、インバウンド効果もあって多くのサービス業の海外進出のチャンスが急速に広がっているように思われる。
今回はその代表として、外食の回転ずしからF&LCを取り上げたが、外食ではラーメン店など他の業態でも一気に海外進出機運が盛り上がっている。また、外食以外にもさまざまなサービス産業の海外進出が始まっており、今後の展開が期待されるところである。しかも、製造業のように輸出ではないために、貿易摩擦という点でも気にする必要のない海外進出であるという点で、製造業以上に期待されるところであろう。
































