農業総合研究所は農家が農産物を直接、全国のスーパーの店頭で販売するためのITプラットフォームを提供する企業です。
同社ではスーパーなどの小売業と契約し、スーパーの店頭に同社専用の直売所コーナーを設けています。生産者は農産物を生産、収穫し、自ら価格を決めて、売り先のスーパーを選び、同社の全国72か所の集荷場に出荷します。同社ではその集荷場から農家の申し込んだ数量をスーパーの物流センターへ配送します。
スーパーの店頭では直売所コーナーに並べられ、消費者が購入すれば、スーパーから販売データが同社に届きます。同社ではその販売データをメールにて農家に連絡します。農家はその売れ行きを見て、出荷量を検討し、販売価格を変更し、中期的には販売先のスーパーを変えたります。
2018年2月末時点の登録生産者数は、7,291名で、半年前に比較して461名増えています。それらの農家の生産する農産物は全国の1,081店舗で販売されています。これは、全国のスーパーマーケットの店舗数20,480店舗(新日本スーパーマーケット協会の「2018年スーパーマーケット白書」)の5.3%に相当します。
2017年8月期の流通総額は7,089億円で、2018年8月期の見込みは9,000億円となっています。
農家にとっては、大手小売業に自ら売り込みをかけることは簡単ではありませんが、同社を通すことで、売り場が確保できます。農家は自ら努力をして品質の高い農産物を作り、それが消費者に評価されるようになれば、ブランド化も可能で、高い価格設定も可能になります。つまり、品質向上努力が収入増に結び付く可能性が高まります。
一方、スーパーから見れば、リスクと手間をかけることなく、売り場の差別化が可能になります。もっとも、普及率が高まった場合には、差別化は難しくなり、逆にスーパーが人気の農家を探して、自社の店頭に並べるように働きかけることも考えられます。
このように旧来のルートではなしえなかった、個々の農家の努力が反映されるような新しい流通経路が、ネットの発展によって成し遂げられようとしています。
有賀の眼
アマゾンに代表されるネットビジネスは、しばしばリアルのビジネス市場を奪うものという捉え方があります。そう考えると、ネットビジネスはパイの奪い合いの手段となってしまいます。しかし、当然ですがリアルではしにくい事業をネットの特性を生かすことで、事業化するビジネスもまた無数にあります。
農業総合研究所の行う農産物の直売所はまさにその代表です。自らIT技術を極めるのは簡単ではありませんが、ITの専門家が提供するプラットフォームを利用することで、自らの価値を高めることができます。もっとも、すでに多くの人が利用しているアマゾンや楽天、食べログなどでは差別化自体が難しくなります。
その意味では、自らのビジネスに有効活用できるプラットフォームを見つけることが、今、最も重要かもしれません。あるいは、誰もやっていないようであれば、自らプラットフォーム・フォーマーになるのも一つの新しいビジネスの道かもしれません。