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マネジメント

稲盛和夫のアメーバ経営に学ぶ「売上最大・経費最小」の実践

楠木建の「経営知になる考え方」

売上を増やし、経費を減らすという経営の原点

 多くの経営者が売上を増加させようとすると、経費も増えるものと思っている。しかし「売上を最大に、経費を最小に」の原則からすれば、売り上げを増やしながらも、経費は同じかできれば減少させるべきだということになる。

 売り上げを増やしながら経費を減らすというのは、生半可なことでは達成できない。尋常ならざる創意工夫が必要となる。利益はその結果として生まれる。良い仕組みがあるから採算が上がるのではない。現場の人たちが採算を上げようと思うから上がる。そのために稲盛和夫が創造した経営の仕組みがアメーバ経営だった。

標準原価計算では現場の採算意識は育ちにくい

 大企業の製造部門では、過去のデータをもとにあらかじめ標準原価を計算しておき、実際の原価と比較することで原価管理を行うのが普通だった。すなわち、標準原価計算だ。

 このやり方では、設定された標準原価によって管理が行われる。製造部門は標準原価を達成するために最大の努力を払うことになる。ここで問題となるのは、標準原価の目標は各部門がより高い目標に挑戦するために自ら設定したものではなく、原価管理部門や上位のマネージメントが設定したものだということだ。

アメーバ経営は自ら目標を立てる仕組み

 これに対して、アメーバ経営では独立した経営組織であるアメーバが自ら目標を設定する。それはアメーバの付加価値であって原価ではない。

 アメーバが独立した経営体である以上、一つの経営主体としてまず受注をできるだけ獲得し、その受注に基づく生産を最小の経費で実現できるよう計画・実行する。この結果として付加価値が最大化される。

 会計は「売上を最大に、経費を最小に」という経営の原点を効率よく追求できるようにするものであるはずだ。しかもその表現は明瞭なものでなければならない。

 会計の本質は情報の集約と単純化にある。事業活動やその裏にある会計の数字は一見複雑に見える。しかしシステムはシンプルなものでなければ意味がない。複雑そうに見える企業活動の実態を極めて単純に表現し、その本当の姿を映し出すところに会計の本領がある。

現場がすぐに動ける数字でなければ意味がない

 アメーバでは複雑な原価計算システムは用いず、アメーバの全員が経営状態をリアルタイムで理解し、即時に能動的に手を打つために必要な指標だけが重視されている。そのためには日々の経理処理は正確・明快・迅速でなければならない。発生したものは直ちにそのアメーバの収益または費用として認識できなければならない。すなわち「一対一対応」という原則である。

 「一対一対応」だけではない。アメーバ経営には本書が説く「キャッシュベース経営」「筋肉質経営」「完璧主義」といった原理原則がことごとく息づいている。アメーバ経営は稲盛会計学の結晶化だったといってよい。

アメーバ経営は小さな経営者を育てる

 アメーバ経営は経営者を育てる仕組みでもある。

 「経営者」の対語は「担当者」だ。経営者に「担当」や「専門」はない。経営者の仕事は定義からして担当者のそれとは異なる。仕事の規模の問題ではない。1000人の部下を従えた製造部門の部長と10人しかいない小さな会社の経営者がいたとする。

 スケールで比較すれば、製造部門長の仕事のほうが「大きな仕事」だ。しかし、その人の仕事が製造という機能の「担当業務」に閉じていたとすれば、どんなに規模が大きくても、その仕事は「経営」ではない。

 商売丸ごとを相手にし、どのように稼ぐのかを考え、全体を動かし、成果を出す――これが経営という仕事だ。本書にある「夜鳴きうどんの屋台を引く」という話は経営の核心を衝いている。

 経営者を育てるためにはうどんの屋台を引っ張らせて、街角でうどんを売らせるという方法が効果的な実習になるだろう、と稲盛は考えた。

夜鳴きうどんの屋台に学ぶ、値決めと商売の本質

 5万円の元手を提供して、「しばらく会社に出てこなくてもよろしい。屋台一式を貸すから、1か月毎晩京都のどこかでうどんを売ること。5万円を1か月後いくらにして持って帰ってくるのかが実績だ」と送り出す。

 まず直面するのは仕入れの問題だ。うどん玉を買うにしても、製麺所まで買いに行くという方法もあれば、スーパーで売っている麺を買ってくるという方法もある。乾燥した麺を買ってきて湯がいて出すこともできる。出汁にしても、いい味を出すために高い鰹節を買ってくる者もいれば、鰹節を削っているところで出た屑をもらってくる者もいるだろう。

 同じ鰹節を使っても、工夫によって出汁のおいしさは変わってくる。原価を安くしていかにいい味を出すのか、創意工夫が必要となる。具のネギやかまぼこにしても、スーパーマーケットで買ってくる者もいれば、工場や農家から直接仕入れてくるという手もある。

 もっとも肝心なのは売値だ。一杯300円の夜鳴きうどんもあれば、500円のものもある。安ければいくらでも売れるだろうが、忙しいばかりで利益を得ることはできない。お客さんを満足させて、しかもよく売れるベストの値段を探し出さなければならない。

 売上を最大にする値決めができれば、あとは「経費を最小に」を徹底すればよい――実際に夜鳴きうどんの屋台を引かずとも、日々の仕事を夜鳴きうどんの屋台のように行う。それがアメーバ経営の神髄だ。

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