「役員(取締役・監査役)への賞与は損金にできない。」
そう思い込んでおられる経営者が、まだおられます。確かに、かつてはそうだったのです。しかし、新会社法が誕生したころから、変わりました。『事前確定届出給与』という制度を使えば、役員への賞与は損金計上できるのです。
1)事前確定届出給与の提出期限は4ケ月経過まで
役員への賞与を損金計上するには、『事前確定届出給与』というフォーマットに必要事項を記載して所轄の税務署に提出します。ICOでも、顧問税理士を通じて毎年、提出しています。記載する主な内容は、役員の誰に、いつ、いくらの賞与を出すかです。
その提出期限は、“定時株主総会の開催日から1ケ月以内”となっています。定時株主総会の実施は、会社の定款で各社が定めています。多くの会社は、年度末から3ケ月以内、となっています。3月末決算の会社であれば、6月末までに、定時株主総会を実施することになります。その1ケ月後までに、『事前確定届出給与』の資料を所轄の税務署に提出するのです。
『事前確定届出給与』に記載する内容は、定時株主総会で決議された、新年度の役員賞与を決議した内容を記載します。誰に、いつ、いくらを出すかです。
定時株主総会の開催期限が年度末から3ケ月以内の会社であれば、決算後4ケ月以内の提出で、役員への賞与は損金に計上できるのです。役員というのは、取締役と監査役です。新年度が始まって3ケ月も経過すれば、その年度の業績予測もある程度は可能なはずです。
2)役員賞与の支給時期はいつでもよい
役員への賞与を損金計上するには、『事前確定届出給与』に、いつ、誰に、いくらの賞与を支給するのかを記載します。
“いつ”というのは、〇月〇日という日付記入欄があるので、そこに賞与を支給する日付を記入します。この日付は、いつでも構いません。年度末に近い日付でなくとも、比較的直近の日付でも、届出することができます。但し、〇月〇日という日付を明確にすることが必要なだけです。
事前確定届出給与における役員賞与はもともと、前年度の業績やその貢献に報いて賞与を支給する、という上場企業のケースを想定して、設けられた制度です。前年度への貢献に対するインセンティブとしての賞与であれば、支給を受ける役員のモチベーションを高めるのが目的です。その目的からすれば、早めに支給したほうがよいのです。
だから、年度末であろうと、早い時期であろうと、いつでも支給できるルールになっているのです。ただし、記載した日付どおりの日に支給することもルールです。銀行振込で賞与の支給をするのであれば、記載する日付が土日祝日など、銀行振込ができない日付を避けて記載する必要があります。
定時株主総会で決議をして、1ケ月以内に役員賞与を支給したいのであれば、事前確定届出給与を、定時株主総会後、速やかに提出すればよいのです。
定時株主総会で決議をして、数か月後や年度末あたりに役員賞与を支給するのであれば、総会決議後、1ケ月以内に提出すればよいのです。そうすれば、役員賞与は損金計上できるのです。
3)全額支給するか、全く支給しないかのどちらか
『事前確定届出給与』に必要事項を記載して、所轄の税務署に提出する時に経営者の皆さんが気にされるのは、
「年度末の月に支給すると届出書を提出していて、災害とかでもし、会社として払える状況でなかったら、どうなるんでしょうか?」
といったことです。届出書を提出した以上、何があっても支給すべきなのか、期中に不測の事態が発生したとして、減額とかできるのか、ということが気になるのです。
結論から言えば、届出書に記載したとおりの金額を支給するか、まったく支給しないか、のどちらかです。減額もできなければ、増額もできません。仮に支給額を200万円と記載していれば、金額どおりに200万円を支給するのか、まったく支給しないのか、のどちらかなのです。
高すぎる金額を記載してもハードルが高いし、金額が低すぎると、せっかく役員賞与を損金計上できるのに、効果が薄れるのです。役員というのは、取締役と監査役です。それぞれに支給額を決めて、支給時の資金繰りに無理のない役員賞与としてほしいのです。
4)支給する人と支給しない人がいてもよい
『事前確定届出給与』のことで多い質問が、
「取締役が3人いたら、役員賞与を支給する場合、3人全員に支給しないとダメなんでしょうか?」
というものです。3人のうち2人は届出書に記載したとおりに役員賞与を支払いたい。でも、3人のうち1人には、支払いたくない、というケースです。
結論から言えば、役員賞与を支給する取締役と、支給しない取締役がいても、構いません。必要なことは、支給する取締役には全額を支給し、支給しない取締役にはまったく支給しない、ということです。
事前確定届出給与のフォーマットには、誰に、いつ、いくらの賞与を出すか、を記載します。1人につき1枚のフォーマットです。3人の取締役がいれば、届出書の明細は3枚になります。そのうちの2人には記載した通りの役員賞与を支給する、あとの1人には記載したものの、役員賞与の支給は無し、ということになるのです。
事前確定届出給与に賞与金額の記載をした場合、業績に大きく貢献した取締役には役員賞与を支給し、貢献度が低い取締役には支給無し、という考え方で構わないのです。
最後にもうひとつ、役員賞与は特別損失で計上してください。出すか出さないか、わからないものなので、特別損失で構わないのです。そのほうが、営業利益が大きく見えて、銀行格付け(スコアリング)には有利に働きますので。