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第5話「複雑性と不確実性」

楠木建の「経営知になる考え方」

いつの世も「問題は山積」

 「出口の見えない閉塞感」「問題が山積」といった言葉が連日メディアで踊る。新聞を読んでいると、何やら世界のなかでも突出して日本が悪い状態にあるような気になる。本当にそうだろうか。

 まず確認したい事実がある。日本の歴史を通じて「問題が山積」していなかったときはただの一瞬もない。昔の新聞を読み返してみればわかるのだが、「問題が山積」と書いていない日はない。少なくとも人々の認知においては、常に問題は「山積」している。

 あらゆることが絡み合っているのが人の世の中。ある問題の解決は必ずといってよいほど新しい問題を生み出す。たとえば、敗戦後の戦後復興(それこそ問題がエベレスト級に山積していた)。問題が工業化と高度成長によって解決されると、今度は高度成長が公害問題を引き起こした。

 ようするに社会の問題が完全に「解決」されることなどあり得ない。常に問題がある。だからといってそれをほっといていいわけではない。何とか解決しようとする(公害問題などは日本がわりと底力を発揮した例である)。しかし、問題は次から次と生まれる。問題解決の自転車操業、これが人の世の宿命だ。

 

その問題は「複雑」なのか「不確実」なのか

 どこを見回しても、問題が山積している。「とりあえず今のところは問題が山積していないという国、手を挙げて!」と聞いて、「ハーイ!」と元気に手を挙げられる呑気な国はないだろう。よその国々に比べて、なお日本が最悪といえるだろうか。到底そうは思えない。むしろ恵まれているとさえ思っている。

 というのは、問題の不確実性が中国やEUと比べると相対的に低いからだ。問題があるにせよ、その問題が「安定」している。「見通しがきく」といってもよい。

 なぜなかなか問題が解決されないのか。やるべきことはわかっているけれども、世の中の利害が複雑に絡み合っているので、合意が形成できない。必ず文句をいうやつが出てくる。合意が形成できないので、国のレベルでは実行に踏み出せない。ようするに問題の「複雑性」が解決を困難にしているわけだ。

 世の中にある問題を「複雑性」と「不確実性」で分けて考えれば、本質は見えてくる。日本の場合、問題の複雑性は高いが、将来どのような状況になっていくのか、予想がつくは問題が多い。不確実性はそう高くない。

 複雑性と不確実性、どちらも厄介ではあるが、複雑性のほうがまだましだというのが僕の考えだ。不確実性は何が起こるかわからないから怖い。原発事故があれほどシリアスな問題になったのは、それが複雑のみならず極めて高い不確実性を多く含んでいた(いる)からだろう。

 


複雑な問題を抱える日本人に必要なリーダーシップとは

 ほとんどのまともな政治家(もちろん、いつの時代も「まともな政治家」は少数派なのだが)は日本の直面する問題を理解している。何をやればいいかもわかっている。ただし、それだけでは社会的合意は形成できない。当たり前の話だ。全体主義国家じゃあるまいし、自然と合意が形成されるわけがない。じゃあ議論しましょうということになるのだが、双方の言い分を聞いているだけではいつまでたっても話がまとまるわけがない。そこで政治決断が必要になる。

 ここで大切なのは政治がきちんとメッセージを発することだ。しかもそのメッセージは骨太の「ストーリー」になっていなければならない。世の中の人々はそれぞれがなにやかやと忙しく生活しているので、自分の利害に直接響かなければ、複雑な物事の詳細まで理解しようという人は少ない。しかし、だからといって「一億総活躍!」といったかけ声だけではどうにもならない。平明なストーリーが社会で共有されなければならない。

 「日本は複雑な問題を抱えて大変だ。だが、そう不確実でもない。問題の正体はわかっているし、何をすればいいのかも決まっている。ついては、こういう段取りでこういう順番でこういう風に問題を片づけていく。この先、この段階ではこういう立場にある人々には苦しい状況になる。しかしその先にはこういう未来が開けているのだからついてきてほしい」という強いストーリーをまず政治家が示さなければならない。それを受け入れる程度には日本国民は成熟しているはずだ。

 首相には、骨太で平明なストーリーをつくるという仕事に、すべてに優先して取り組んでいただきたい。あらゆる機会をとらえて、言葉と体のすべてを総動員して、そのストーリーを堂々と国民に伝えてほしい。未来に向けたストーリーをつくれる程度に問題が「安定している」ということが日本の強みなのだから。

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