ドイツ連邦交通・デジタルインフラ省(BMVI)が資金を提供している「KI4LSAプロジェクト」は、AIを活用したスマートな信号切り替えによる渋滞解消と横断歩道での歩行者の安全性向上を目指したものだ。
従来の信号機が使うセンサーの代わりに高解像度カメラとLiDARセンサーを設置し、信号待ちの車の数や平均速度、待ち時間を長期間記録、そのデータを深層強化学習(DRL)アルゴリズムで学習させることで、信号の最適な切り替えパターンを探った。
ドイツのレムゴー市の交差点を使ってシミュレーションを構築し、仮想的に生み出した交通状況でさまざまな信号の切り替えパターンを実験して、最も待ち時間を短くできるパターンを調べた結果、「スマート信号機」がある交差点では普段に比べて交通の流れを10~15%改善できることが実証されたという。
■シミュレーションと現実のギャップ
しかし、これは実際の交差点で試したのではなく仮想空間で行ったシミュレーションで、使用した交通行動の仮定は現実を1対1で表現しているわけではないため、今後数か月にわたってレムゴー市の2つの交差点でデータを取るとしている。
EUは交通渋滞が加盟国に年間合計1,000億ユーロの経済的損害を与えていると試算しているが、今回の「スマート信号機」は自動車ではなく歩行者に着目し、LiDARセンサーで人物検出と追跡を行って多くの人が待っている時の待ち時間を30%短縮、横断時間を長くすることで安全性を向上させ、信号無視の件数を約25%削減することを目標としている。
■人間は必ずしも合理的に行動しない
伝統的経済学では、市場で行動する人間は意思が強く合理的な考えをすると想定しているが、自分や周囲の人達を見ても、人間は必ずしも合理的に行動していない。
後から考えれば無駄なものを衝動買いするし、健康によいとは思えない食べ過ぎや飲みすぎ、過度のダイエットなどをしている。
そのため不合理な行動をする人間を想定して理論を構築した「行動経済学」が近年注目され、ノーベル経済学賞の受賞者も出ている。
最近のAIは人間の行動などを学習(ディープラーニン)させた結果を使っているものの、囲碁の世界チャンピオンに勝利したGoogleの「AlphaGO」のように、合理的な行動の方が得意だと思われる。
今回のドイツの「スマート信号機」が危険をかえりみず、ルールを破って赤信号で渡る人間の行動をどれだけ少なくできるかに注目している。
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●Traffic lights controlled using artificial intelligence(英語プレスリリース)
https://www.fraunhofer.de/en/press/research-news/2022/february-2022/traffic-lights-controlled-using-artificial-intelligence.html