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人事・労務

第70話 同一労働同一賃金ガイドライン改正を、組織の「多様性」と向き合う機会に

賃金決定の定石

 2026年10月に同一労働同一賃金ガイドラインが改正されます。今回の改正は、これまで裁判例で積み重ねられてきた判断基準を整理し、企業が不合理な待遇差を避けるための「具体例」をより明確に示した点に特徴があります。家族手当や住宅手当、季節休暇に加え、今回新たに退職手当なども追加され、正社員と非正規の待遇差がどのような場合に不合理と判断されるかが、より具体的に示されました。制度の趣旨を踏まえれば、こうした流れは自然なものと言えるでしょう。

 

 ただし、ここで強調したいのは、企業として「改正内容を細部まで網羅的に理解する」こと自体を目的とするのではなく、むしろ「企業がこの改正をどのような姿勢で受け止めるか」が重要だということです。人材不足が続くなか、パート・有期雇用の方々に長く働いていただくためには、待遇差の理由を丁寧に説明し、納得感を高めることが欠かせません。「ルールが変わったから仕方なく対応する」という受け身の姿勢では、制度の本旨を見失い、結果として職場の信頼感すら損なう可能性があります。

 

 今回の改正では、待遇差の説明責任がより明確に求められるようになりました。例えば、家族手当を正社員だけに支給している場合、その理由が「長期的な配置転換を前提としているため」であれば、非正規の方にも同様の転換可能性があるのかどうかを整理する必要があります。住宅手当についても、転居を伴う配置変更の有無が合理性判断の軸となります。さらに、退職手当については、職務内容や責任の程度、人材活用の仕組みなどを踏まえた合理性判断が求められます。こうした具体例は、単なる制度の一部修正ではなく、企業の人材活用方針そのものを問い直す契機となります。

 

 また、賃金制度や評価制度の整合性もこれまで以上に問われます。職務内容や求められる責任範囲を明確にし、それに応じた処遇を設計しているか。昇給や賞与の判断基準が、非正規の従業員にも理解できる形で示されているか。雇用形態にかかわらず、筋の通った説明可能性が求められる領域です。また仕組み自体が曖昧なままでは、どれほど丁寧に説明しても納得感は得られません。

 

 さらに、今回の改正は、企業が「多様な人材をどう活かすか」を考え直すきっかけにもなり得ます。採用がますます難しくなる中小企業では、従来の正社員中心の人材活用だけでは組織を維持することが難しくなっています。外国人労働者、シニア社員、子育て中の短時間勤務者など、多様な人材が職場に増えるなかで、処遇の合理性を整えることは、DEI(多様性・公平性・包摂性)の観点からも重要です。

 

 例えば、外国人労働者に対しては、職務内容や責任の程度が同じであれば、手当や休暇の付与において不合理な差を設けることはできません。シニア社員についても、経験や能力を適切に評価し、必要な教育訓練を提供することが求められます。今回の改正で教育訓練の均衡付与が明確化されたことは、こうした多様な人材の活性化にもつながるはずです。

 

 人材不足の時代において、パート・有期雇用の方々の働き甲斐を高めることは、企業の競争力に直結します。待遇差の合理性を整えることは、単なる法令対応ではなく、職場の信頼を育てるための投資です。今回の改正は、その取り組みを後押しする「きっかけ」にすぎません。だからこそ、企業には「仕方なく守る」のではなく、「より良い職場をつくるために整える」という前向きな姿勢で臨んでいただきたいと思います。

 

 同一労働同一賃金への取り組みは、企業が働く人々に対してどれだけ誠実に向き合っているかを問うものです。待遇差の合理性を丁寧に説明し、納得感を高めること。そして、多様な人材が活躍できる組織づくりを進めること。それこそが、これからの人事に求められる姿勢ではないでしょうか。

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