人間学・古典
第二十九話 「二卵を以て干城の将を棄つ」
時は戦国時代、孔子の孫の子思が衛公に使えていたとき、苟変という男を大将に任用すべし、と推薦した。
これに対し衛公は“苟変は以前に役人であったとき、人民に割りあてて一人当たり鶏卵二個づつも
取り立てて食べたことがある、そのような人間に大将を命ずるわけはいかぬ”と反対した。
これに対し子思はこうのべた“聖人が人を用いるやり方は、ちょうど大工が材木を用いるようなもので
役に立つところを取って用い、役にたたぬところは捨てる”。人間を用いる場合も同じ。長所を用いて短所は捨てる、
ということに徹底すればよいのである。今の世は、喰うか喰われるかの戦国の世にわずか玉子二個のために
国を守る将を棄てようとしている。このような不見識なことは隣国に知られないようにしなければならないと。
これは私の銀行時代の話
一人の銀行員がいた。あだ名は頑ちゃん、人の道に反したことについては一歩も譲らぬ頑固一徹という意味で、
不正については妥協も許さぬ頑固者であった。そのため小さな支店を転々として、年を重ねていた。
銀行の幹部としても触らぬ神にたたりなしの気持ちで頑ちゃん支店長を扱っていたに違いない。
時は終戦直後の銀行預金は、封鎖か一部生活資金のみ自由としてあった。
もちろん封鎖資金を自由化すれば処罰対象となる。
この封鎖破りを頭取が犯したのである。これを知った頑ちゃん、直訴に及んだため頭取は更迭。
しばらくしてこの話を頑ちゃんから聞いて驚いた。今は頑ちゃんも地下に眠っているが地獄の鬼に
義の何たるかを語っているのではなかろうか。
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※一部旧字を現代漢字に変更させていただいております。 |