2025年11月高市首相の「台湾有事は存立危機事態になり得る」という国会答弁をきっかけに、日中関係が急速に悪化し、国交樹立以来最悪の状態を迎えている。日中関係の悪化は経済をはじめ様々な分野に影響を及ぼしている。
今年11月に中国の深圳でAPEC首脳会議が開かれる。それに合わせて高市首相と習近平国家主席の首脳会談が実現されるか?冷え込んだ日中関係が改善できるか? いま世界に注目されている。
筆者は最近、北京旅行中に現地の日中関係専門家と意見交換した。本稿は現地訪問の結果を踏まえて、日中関係の行方を分析する。
●握手はOK、会談は御免~大阪G20サミットの「日韓方式」が参考に
今年5月、筆者は旅行先の北京で、現地の日中関係専門家と面談した際、11月に深圳で開かれるAPEC首脳会議に合わせて、日本の高市首相と中国の習近平国家主席による日中首脳会談の可能性について質問した。先方は「握手はOK、会談は御免」と回答し、2019年大阪G20サミットの「日韓方式」が中国の参考モデルになる可能性が高いと述べた。
【写真説明】大阪G20サミット会場で握手する安倍首相と韓国の文在寅大統領。
いわゆる「日韓方式」とは、2018年元徴用工問題をめぐり日本企業に賠償を命じた韓国大法院の判決をきっかけに、日韓関係が戦後最悪と言われるほどに冷え込む中で、2019年大阪G20サミットの議長を務める安倍首相(当時)が公式行事で文在寅大統領(当時)と握手したが、韓国側が強く要請した首脳会談開催に応じなかったことを指す。
現在の日中関係は当時の日韓関係とよく似ている側面がある。台湾問題を「中国の核心利益の核心」と位置付ける中国から見れば、高市首相の台湾有事発言が超えてはいけない一線を超えたものであり、到底容認できない。この発言が撤回されない限り、日本側が首脳会談を求めても、中国側は応じる可能性が極めて低いと見ていい。
ただし、中国は今年APEC首脳会議の議長国であるため、礼儀上、習近平主席が高市首相と握手するだろう。即ち、「握手はOK、会談は御免」という「日韓方式」の再現だ。
●第三国の事例~悪化から改善へのキーワードは「政権交代」
前出の日中関係専門家によれば、高市首相の思想や信条から見れば、「台湾有事は存立危機事態になり得る」という発言が撤回される可能性がほとんどないと見ている。言い換えれば、中国側は高市政権にあまり期待せず、長期戦の心構えが出来ているという。
世界的に見れば、対中関係悪化のきっかけを作った政権は、関係を改善させることが難しく、次の政権に頼らざるを得ない例が多い。
まずオーストラリアの例を見よう。2020年4月に当時のスコット・モリソン政権は、武漢研究所が新型コロナウイルスの発生源だと疑い、独立した国際調査を求めた。それをきっかけに、豪中関係が「歴史的冷え込み」と言われるほど急激に悪化した。中国が激しく反発し、豪産製品の輸入禁止や制限措置を相次いで発動した。しかし、2022年に誕生したアルバニージー政権は対中関係の改善に取り組み、2025年7月に首相の中国訪問が実現され、関係の修復に成功した。
次にカナダの例を見よう。2018年に当時のトルドー政権が華為幹部を逮捕。中国は早速に報復措置を取り、カナダ人2人をスパイ容疑で逮捕し、両国関係の悪化が長期化していた。関係悪化に歯止めをかけ、改善のきっかけを作ったのは、2025年に誕生したカーニー政権だ。2026年1月にカーニー首相が中国を訪問し、習近平国家主席との首脳会談も実現された。両国関係が遂に正常化の軌道に乗り始めた。
第三の実例はイギリスだ。2020年にイギリス保守党政権のジョンソン首相が香港国家安全維持法施行を理由に一連の制裁措置を発表した。中国が強く反発し、両国関係は長く冷え込んだ。25年に労働党政権が誕生し、今年1月にスターマー首相が訪中し、英中関係を大きく改善させた。
第四の実例はフィリピンだ。2013年アキノ3世政権が南シナ海仲裁裁判を起こし、中国が激しく反発し、両国関係が悪化した。2016年親中派と見られるドゥテルテ大統領が誕生し、中国との緊張緩和に努めた。同年にドゥテルテ大統領が中国を訪問し、習近平主席との首脳会談を通じて、両国の関係が一層改善させた。但し、2022年に親米派と見られるマルコス大統領の誕生で両国関係が再び悪化に転じた。領土問題をめぐる対立と緊張が今も続いている。
上記4つのケーススタディの共通点はほかでもなく「政権交代」だ。
●日中関係の改善は「ポスト高市」か?
21世紀に入ってから、日中関係も「悪化→改善」を2回経験した。いずれも政権交代後に実現したものだ。
1回目は2001年小泉首相(当時)の靖国参拝をきっかけに日中関係が悪化した。2006年に安倍政権が誕生。同年9月に当時の安倍首相が最初の外遊先を中国に選べ、日中関係を「戦略的互恵関係」に再定義し、両国関係の修復に成功した。
2回目は2012年民主党野田政権の「尖閣国有化」決定をきっかけに、中国が激しく反発し、日中関係が再び急速に悪化した。2018年に自民党の安倍首相(当時)が中国を公式訪問し、両国関係を正常化させた。
内外の実例に示したように、政権交代なしでは両国関係の修復が難しい。冷静に見れば、日中関係の改善は「ポスト高市」になる可能性が高いという見方は妥当だろう。(了)


















