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第80話 「上海G20密約」は存在するか?

中国経済の最新動向

 今年2月以降、日本の金融市場は荒れた模様を示し、円高・株安が加速する動きが続いている。調べてみれば、実はこの動きが米中による「上海G20密約」の噂と大きく関係している。
 
 2月下旬、中国・上海で主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。採択された共同声明では、市場の安定のために金融政策、財政政策、構造改革の「すべての政策手段を用いる」と訴えた。為替政策では、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは経済・金融の安定に悪影響を与えうる」と指摘した上で、「通貨の競争的な切り下げを回避することや(輸出)競争力のために為替レートを目標とはしない」という合意を明記した。一見すれば、驚くほどの内容は何もなかった。
 
 しかし、一部のマスコミは、この共同声明とは別に、公開出来ない「密約」が存在すると報道している。「密約」とは、世界的な金融市場の安定を図るために、(1)金融混乱の起点となる人民元安を食い止める。(2)ドル高を阻止する。(3)日欧が金融緩和を控える、という内容だった。この内容は明らかに日欧を犠牲にし、米中を利するものと見られ、密約は米中2大国の「謀略」と言われる。
 
 一方、会議の参加者である日本の財務相麻生太郎氏は、「密約なんてありませんからね」と何度も繰り返し、密約の存在を否認している。「密約」が実在するかどうか、いまでも藪の中で真偽不明となっている。
 
 筆者は、「密約」が存在する可能性が高いと見ている。その根拠は次の3つである。
 
 先ず、世界通貨安競争の原因に対するアメリカ政府判断の変化である。一般的には、昨年8月の人民元切り下げが世界の金融市場混乱の起点と思われる。実際は違う。過去3年間(2012~15年)人民元対ドルレートの切り下げ幅は僅か3%に対し、日本円は約3割、ユーロは約2割安くなっている。つまり、世界通貨安競争の張本人は人民元ではなく、円とユーロである。これはアメリカの基本判断となっている。
 
 第二に、日本の円安誘導政策に対するオバマ政権の立場の変化である。最初は安倍政権の景気刺激のための円安誘導政策に対し理解を示し、寛容的な立場を取ってきた。しかしアメリカ経済は、回復はしているが、強さが欠けている。輸出も期待通りに伸びていなかった。米国内世論は日本の円安誘導政策に対する寛容さが無くなり、逆に厳しく批判する雰囲気に変わってきた。その結果、オバマ政権は円安黙認から円安けん制・批判に政策転換せざるを得ない。
 
 この政策転換を一層明確にしたのは、4月29日に米財務省が発表した「半期為替報告書」である。報告書は、日本、中国、ドイツ、韓国及び台湾など5カ国・地域を為替「監視リスト」と指定した。筆者の知る限り、日本が米国に「為替監視国」と指定されるのは初めての出来事である。仮に日本は大規模な為替介入などを続ければ、さらに「為替操縦国」と認定され、アメリカによる報復措置が避けられない。日米関係も大きく揺らぎかねない由々しき事態となる。
 
 第三に、人民元安の食い止め、米ドル高の是正は米中双方の国益にかなうため、両国の思惑は意外に一致している。たとえ「G20密約」が存在しないとしても、米中財務トップによる「密約」があると思う。
 
 事実上、今年2月上海G20財務相・中銀総裁会議以降、人民元対ドルレートは落ち着きを見せており、5月15日時点の人民元対ドルレートの中間値は6.49で、1月4日時点の6.50とほとんど変わらない。一方、米ドル対日本円及びユーロの為替レートは年初に比べそれぞれ9%、5%程度安くなっている。つまり米中の思惑通り、人民元安の食い止めとドル高の是正が確実に行われている。
 
 さらに、今年2月以降、ルー米財務長官の日本による円売り介入牽制発言を繰り返し、為替介入をめぐる日米財務トップの応酬が注目される。例えば、4月14~15日米ワシントンで開かれたG20財相・中銀総裁会議で、麻生財務相は円高傾向につき「円相場の偏った動きを懸念している」と発言すると、ルー財務長官は「最近は円高が進んでいるが、市場の動きは秩序的だ」と、日本の円売り介入を強くけん制した。5月に入ると、麻生財務相は急激な円高に対し、「為替介入の用意がある」という表明を繰り返すことに対し、5月13日にルー氏は「1つの国が通貨安競争に踏み切れば、他国を巻き込んで連鎖的な動きになる」と日本側をけん制し、G7で「通貨安競争の回避を再確認する」と発言している。為替介入をめぐる日米対立は際立っている。
 
 今年はアメリカ大統領選挙の年であり、共和党のトランプ候補も民主党のヒラリ・クリントン候補も日本の為替介入に極めて厳しい姿勢を示している。金融分野におけるオバマ政権の対日政策も転換している。従って、「上海G20密約」の有無にかかわらず。これまで続いてきた円安・株高の局面は終局を迎え、円高・株安の動きが当面続くという見方が妥当だと思う。

 

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