menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

人間学・古典

第7回 「新しき年を寿ぐ」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 まずは、新年おめでとうございます。本年もコラムのご愛読の程、よろしくお願い申し上げます。

 気が付けば、もう一年が過ぎた。どんどん速くなるのは仕方がないことで、それは嘆くまい。今の日本では、「お盆休み」、「G.W」と同様、年末年始の休みは「大型連休」として定着している。

 とは言え、やはり年の変わり目の「お正月」は誰しも特別な想いがあるはずで、世界を見回しても、海外諸国よりも日本は「お正月」を大切にしている。もっともその前には、年末の慌ただしい中で仕事の締め括り、年賀状の印刷、お得意さんへのご挨拶などに忙殺される時期がある。

 さて、年が改まり、元日を迎える。種類や方法は違えども、新年のお祝いを「お節料理」でという人々は多い。それも、デパートの豪華なカタログにある、高級老舗料亭や旅館をはじめ、イタリアン、フレンチなどの有名店から豪華な「お重」を取り寄せて祝うこともあるだろう。

 最近は、海外で新年を迎える方々も増える一方だ。お正月の過ごし方はそれぞれで、年に三度しかない長い休み、一年の始まりのエネルギーの充填やリフレッシュの方法も多様化しており、もはや珍しいことではない。

 ただ、お正月の「お節料理」が本来の姿からかなり掛け離れた形の「豪華宴会的保存食」として、本来の意味を置き去りにしたまま、新たな日本の伝統として定着しつつあるのはいかがなものか、と新年早々の老婆心である。

 ひと昔かふた昔前までは、豆に真っ黒になるまで働くようにと「黒豆」、めでたい新年を祝う「紅白」の蒲鉾、子孫繁栄を願って「数の子」、喜ぶに掛けて「こぶ巻」など、新年らしく験を担ぐものを重箱に詰めていた。もちろん、今もそうした伝統的なお節料理の数は多いが、実は、ここにもいささかの疑問があるのが本当のところだ。

 もっともらしく伝えられているのは、お節料理の内容は、これらの縁起担ぎの他に、「お正月は主婦も楽ができるように、保存の効くものばかりを濃い目の味付けで」とのもう一つの側面だ。確かに、それは一面の事実であることは否定しない。しかし、その裏側ある本来の「お正月」の意味を、今、きちんと考え直しておく必要もあろうかと思う。

 本来、「正月」とは、その年の「歳神」(としがみ)をお迎えする、庶民にとっても一年で最も重要な行事なのだ。そのために、暮れには忙しい思いをして大掃除をし、一年の汚れや穢れを落とす。「お節料理」も、まずは元日にお越しになる「歳神」様にお供えし、その「お下がり」を我々が無事に訪れた新年の喜びと共にいただくのだ。

「歳神」とは毎年、正月に各家にやってくる神様のことで、地方によっては「恵方神(えほうしん)」、「年殿(としどの)」など、さまざまな言い方がある。「恵方」とは周知の通り、その年に縁起が良いと決められる方角で、「恵方巻」はともかく、平安時代の「陰陽師」華やかなりし時代からある言葉だ。

 こうした、本来のお正月の主役であるべき「神」に関する考えが、一連の行事からごっそり抜けているのが現状だ。「日本は神の国だ」とまでは言わないが、我々は、「土着的」とも言えるほどに、神々と身近に暮らしている。お正月の習慣で残っているのはせいぜい「初詣」ぐらいなものだ。それも、僅かなお賽銭を放り投げ、「家内安全」「昇進したい」「給料を上げろ」「出会いがほしい」「成績が上がりますように」、挙句の果てには「今年こそ宝くじ大当たりを」と、欲の限りを押し付けて帰ってくる。海外の人には理解のできない感覚だろう。日本人と「神仏」については、また、改めて述べる機会もあろう。

 お正月を迎えるに当たり、マンションでも玄関に「門松」を立てる家はある。この門松の「松」は、神様が降りてくる時の目印なのだ。古来より「松」は神が降臨する樹木とされている。室町時代に起きた芸能「能楽」が演じられる能楽堂の背景には、必ず大きな「松」が描かれている。これは単なる背景ではなく、「影向(ようごう)の松」という、神を迎える「依り代」の意味を持つ。本来、芸能は見えない「神」に捧げることに端を発し、そこに観客がいるのだ。

 こうした、本来の「お正月」の意味を知った上であれば、海外旅行も豪華おせちも構わないだろう。しかし、その本質を踏まえているのといないのでは大きく違う。もっと怖いのは、勘違いされたままに何の疑いもなく、次の世代へと伝承されてしまうことだ。実は、日本の伝統や文化にはこうしたものが少なくない。明らかな意図のもとに考え方を変え、多くの人が知っているのであればまだしも、世の中の流れの中で知らぬ間に変わっているのが一番恐ろしい。

 新年早々ケチを付けるようで恐縮だが、どうか皆さん、仕事始めの「年頭の辞」で、改めて社員の方々に日本人として「お正月」の意味を再度考えてもらうことも、あながちムダとは言えないのではないか。

 どうぞ、よき一年でありますように心よりお祈り申し上げます。

 

第6回 「真の国際化とは…」前のページ

第8回 「『雑談』の力と意味」次のページ

関連セミナー・商品

  1. 社長が知るべき「人間学と経営」セミナー収録

    音声・映像

    社長が知るべき「人間学と経営」セミナー収録

関連記事

  1. 第29回  「なぜくだらない物なのか」

  2. 第10回 「江戸人の危機管理」

  3. 第16回 「縦書き文化の復権」

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 経済・株式・資産

    第131話 経営とリスク(16)
  2. ブランド

    「リアル”Cool Biz”スタイル考 Vol.1」 -...
  3. 健康

    第82号 ゴルフ次世代の新商品
  4. 戦略・戦術

    第251号 通販的「企業存続の極意」
  5. マネジメント

    第20回 社員の幸せを考えるブレない経営とは?~事例:ディズニー
keyboard_arrow_up