パラドックスの発想~「ファーウィ排除」の勝者はファーウィだ
昨年12月1日ファーウィCFO孟晩舟逮捕事件以降、「安全保障上の理由」で中国通信機器大手ファーウィを排除する動きが日米欧各国に広がっている。
それでは「ファーウィ排除」の勝者は誰か?ファーウィのライバルであるスウェーデンのエリクソンまたはフィンランドのノキアか?それともアメリカ企業のシスコシステムズまたはAT&Tか?筆者はパラドックス(逆説)の発想から「ファーウィ排除」の勝者は、ファーウィだと思う。
理由は次の3つ。1つ目はファーウィ製品のセキュリティーリスクを証明できる根拠がない。2つ目は政治的な意図による「ファーウィ排除」は市場原理に逆行する。3つ目はアメリカによる世界範囲の「ファーウィ排除」は結果的にはファーウィのための絶好の無料広告だ。
ファーウィ製品のセキュリティーリスクを証明できる根拠がない
アメリカによる「ファーウィ排除」の理由は「安全保障上の懸念」という。いわゆるセキュリティーリスクだ。しかし、ファーウィ製品のセキュリティーリスクを証明できる証拠は、アメリカが未だに示していない。証拠がないのに、アメリカが同盟国に「ファーウィ排除」を求めている。正に説得力がない理不尽な要請だ。
この理不尽な要請に対し、イギリス情報当局トップは2月20日に、次世代通信規格「5G」移動通信システムに、ファーウィ製品の使用に伴う国家安全保障上の「リスクが管理できる」と表明し、ファーウィを排除する「必要がない」と結論づけた。
実は、アメリカによる「ファーウィ排除」の本当の理由は、ファーウィ製品の高技術、高品質、低価格が米国企業の脅威だ。ファーウィは世界通信機器分野のリーディングカンパニーであり、特に次世代通信規格「5G」技術分野では欧米企業をリードしている。技術や品質が優れているが、価格では欧米企業に比べ格段に安い。これはファーウィの成功の「秘密兵器」とも言われる。中国の一民間企業であるファーウィは、今アメリカの技術覇権を脅かす中国企業の象徴的な存在となっている。
従って、アメリカによる「ファーウィ排除」は「安全保障上の懸念」ではなく、政治的な理由によるものだ。企業間競争の範疇を超え、米中2大国の技術覇権争奪の縮図となっている。
「ファーウィ排除」は市場原理に逆行する
政治的な理由による「ファーウィ排除」は市場原理に逆行する。そのため、アメリカに追随する国や企業は、大きなコストを払わざるを得ない。その典型的な事例はソフトバンク株式会社である。
ソフトバンクは日本三大通信会社のうち、4G通信システムにファーウィ製品を導入した唯一の企業である。同社が2015~17年度に調達した基地局の金額は全体で767億円、そのうちファーウィ製品は206億円で3分の1弱を占める。
昨年12月1日、カナダ当局がアメリカの要請に応じ、ファーウィ副会長兼CFO孟晩舟氏を逮捕した。その直後の12月6日、日本政府は事実上、「ファーウィ排除」の方針を決めた。ソフトバンクも政府の方針に従い、5Gシステムではファーウィ製品を採用せず、既存の4G分野では段階的にエリクソンとノキアの基地局を以てファーウィ基地局に代替すると表明した。
周知の通り、12月6日、ソフトバンクの携帯電話サービスに大規模な通信障害が発生し、日本全国で数千万人が4時間半にわたり、音声通話やデータ通信が利用不可となっていた。同じタイミングに海外11カ国で同様の通信障害が発生し、数億人が影響を受けた。原因はエリクソン製の交換機のソフトウェアに異常が発生したという。
エリクソン製品にセキュリティー問題が発生したのにもかかわらず、ソフトバンクはノキア、エリクソン製品を以て、セキュリティー問題がないファーウィ4G基地局に代替する方針を示している。もしこの方針を実行すれば、「ファーウィ排除」のコストがソフトバンクの携帯電話利用者に転化され、そのセキュリティーリスクも利用者が負ことになる。市場原理に逆行するソフトバンクの非常識な行動と言わざるを得ない。
マーケットは早速に市場原理に逆行する企業にノ―を言っている。昨年12月19日に新規株式上場したソフトバンクの終値が1282円で株式発行価格1500円を15%も下回っている。その後もソフトバンク株価の低迷が続き、今でも1300円台で推移している。市場原理に逆行する企業が投資者の不信を招いた結果と言える。
実際、政治的な理由による「ファーウィ排除」は、アメリカの同盟国の中で根強い抵抗が広がっている。フランス、ドイツ、イタリアなどはアメリカの「ファーウィ排除」と一線を画している。イギリスはファーウィ製品の「リスク管理が可能」として、「排除する必要がない」と表明している。ニュージランドも最近、「ファーウィ排除」の方針を見直す可能性を検討しているという。アメリカのトランプ大統領でさえ、2月21日、ツイッターで「米国は進んだ技術を排除するのではなく、競争を通じて勝利したい」と述べ、「ファーウィ排除」の見直しに含みを持たせた。結局、市場原理に逆行する「ファーウィ排除」は、市場に排除される可能性が高い。
絶大の「無料広告」効果
昨年12月以降、ファーウィは世界主要マスコミのトップニュースの常連となり、企業としての知名度が急上昇している。それはアメリカによる「ファーウィ排除」にもたらされた「無料広告」の効果と言える。
ファーウィはもともと世界の著名企業ではなかった。ファーウィが広く世界に知られ始めたのは、米国企業シスコシステムズとの訴訟事件以降である。2003年1月、シスコは特許権侵害、不当競争、商業秘密窃盗など21項目の罪で、テキサス州東区裁判所にファーウィを起訴した。
シスコの起訴に対し、ファーウィは著名なアメリカ人弁護士を雇い、事実を以て積極的に応戦した。1年9ヵ月にわたる長い法廷闘争の結果、裁判所はシスコ側の起訴事実の大半を認めず、結局、双方が2004年10月に和解した。ファーウィにとって、大きな勝利だった。シスコとの訴訟事件をきっかけに、ファーウィの知名度が急上昇し、一躍して「世界のファーウィ」となった。結果的にシスコとの訴訟事件はファーウィに絶大の「無料広告」効果がもたらされた。
今回の「ファーウィ排除」劇もファーウィに予想外の無料広告効果をもたらすだろう。この意味でも「ファーウィ排除」の勝者はファーウィと言えよう。(了)