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第46回 はやぶさ温泉(山梨県) 信玄もお気に入り!? 大量に湧き出す「ドカドカ湯」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■「源泉かけ流し」は正義か?
 「温泉は源泉かけ流しにかぎる」と主張する温泉好きは多い。もちろん私も何度も湯を使いまわした循環濾過の湯よりも、新鮮で個性を感じられる源泉かけ流しの湯のほうが好みだ。
 しかし、源泉かけ流しなら何でもいい、というわけでもない。かけ流しにしていても、湯船に投入される量が極端に少なければ、浴槽内の湯が入れ替わるまでに時間がかかる。湯船が大きければなおさらだ。さらに、入浴客が多ければ湯は汚れていく。
 つまり、湯船内の鮮度を保てなければ、源泉かけ流しの魅力は半減である。実際に入浴すると物足りなさを感じたり、混雑具合いによっては循環の湯船よりも不快感を覚えたりすることさえある。
 反対に、投入される源泉の量が多い湯船は快適である。浴槽内の湯は短時間で新しい湯に入れ替わるし、湯船が大きすぎず適度なサイズであれば、湯の汚れはどんどん湯船の外にあふれ出していく。何よりも鮮度が高く、まだ個性を失っていない湯を堪能することができる。
 源泉かけ流しは、湯の投入量と湯船のサイズが極めて重要。これが入浴感を決定づけると言ってもいい。
 
■加水も加温も必要ない42℃の湯
 戦国時代に甲斐国を統治した武田信玄ゆかりの寺として有名な恵林寺。信玄公をはじめ武田家家臣たちのお墓がある名刹である。そこから徒歩で5分ほどの距離に湧いているのが、日帰り入浴専用の「はやぶさ温泉」である。
 
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 笛吹川沿いに建つ小さな温泉施設で、どこか料亭風の佇まいである。一日中休憩することもできるので、休憩所の大広間は、おしゃべりを楽しむ地元客で一杯。平日の昼間から、たいへんな盛り上がりである。
 いい湯が湧いている温泉施設の休憩室は、どこも活気があるものだ。温泉が人々を元気にするのだろう。
 浴室は、男女別に内湯と露天風呂がひとつずつ。内湯の浴室に入ると、まずは源泉の投入量に驚く。音で表現すると、ドバドバドバッ。いや、ドカドカドカッであろうか。
 鯉をかたどった湯口からは、透明湯が噴水のように勢いよく投入されている。15人ほどが入れそうな石張りの湯船からは、大量の湯があふれ出していく。洪水状態である。
  泉温は約42℃。湧き出した時点ですでに適温であるため、加水も加温もしなくてよい。もちろん、源泉かけ流しである。温泉は自然の恵みなので、人が浸かるのにちょうどいい泉温で湧いているとはかぎらない。むしろ、熱すぎたり、ぬるすぎたりするのが普通だ。そういう意味では、奇跡の湯といえるだろう。
 
■毎分500リットル湧く「美人の湯」
 泉質も個性的で、pH値9.8の強アルカリ性の単純温泉である。アルカリ性の湯は、肌の角質を溶かすので、一般に「美人の湯」といわれる。だから、肌にしっとりとなじみ、スベスベ感が強い。また、硫黄の香りがプンプンと漂うのも、温泉らしくて好感がもてる。はやぶさ温泉の源泉は、含まれる成分量はあまり多くないが、数字以上に存在感のある湯である。
 階段を下りた先にある庭園風の露天風呂は岩づくりで、10人ほどが浸かれるサイズ。こちらも大量の湯がオーバーフローしていて快適である。
 脱衣所の貼り紙には、「この温泉は、循環していませんので、シャワーから、水道の蛇口から、どこからでも、安心してお飲み頂けます。こんな温泉めったにない」と書いてあった。毎分500リットルも湧くほど湯量が豊富なため、カランやシャワーにも温泉が使われている。しかも、湯口はおろか、シャワーの湯も飲めるというからビックリである。たしかに、こんな温泉めったにない!
 山梨県には、「信玄の隠し湯」と呼ばれる信玄公ゆかりの温泉が点在している。もしも信玄公が「はやぶさ温泉」を掘り当てていたら、きっと「隠し湯」として大事にしたに違いない。
 

第45回 宝乃湯温泉(兵庫県) 名湯・有馬温泉に負けない濃厚な黄金湯前のページ

第47回 越後湯沢温泉(新潟県) コロナ禍で脚光を浴びる「雪国」の名湯次のページ

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