今月より『賃金決定の定石』と題して、新たに本コラムを担当させていただくこととなりました。
賃金決定の実務に関わるテーマを中心として、処遇決定の根拠となる人事評価をめぐる視点も織り交ぜ、時に時事的な話題も取り上げながら、皆様の実務に役立つお話を取り上げてまいります。
この四半世紀を振り返りますと、平成不況、リーマンショック、数多くの自然災害、そして2020年のコロナ禍のように、経済環境、経営環境は様々な要因で目まぐるしく変わってまいります。
そうした環境変化の中にあっても、企業として従業員を雇用し、自社の商品やサービスを生み出し続けていかなければなりませんから、従業員の賃金をわかりやすく合理的に決定し、そのやる気を引き出すように運営していくことは、常に経営管理上の優先順位の高いテーマとして位置付けられることになります。
賃金管理に関する問題は、中小企業経営者の皆様にとっては、とりわけ難しい経営課題だと思われがちです。しかし、それぞれの会社で採用された従業員に対して具体的な仕事が割り当てられ、その職務の対価として賃金が支払われるという基本的な構図が変わることはありませんし、従業員一人ひとりの賃金をいかに合理的に決めたらよいのかという問題は、連綿と紡がれてきたテーマでもあります。
そして、従業員にとっては労働の対価であり、生活の糧でもある賃金について、新入社員にもわかるシンプルな制度が何よりも大切だという事実も変わりません。会社が、しっかりした説明を出来ないような処遇体系なら、やる気のある優秀な社員が定着するはずがないからです。
本コラムでは、経営者としての視点に立ちつつも、その一方で従業員のやる気(モラール)をいかに維持・向上させるかという視座を忘れずに、様々なテーマを取り上げていきたいと考えています。
月例賃金、昇給運用、採用初任給、賞与の個別配分、手当の改廃、定年後の再雇用、専門職の処遇、定年延長、昇降格の運用、人事評価、役職定年、働き方の多様化、テレワーク、ICTと労務管理、退職金制度、育児介護と両立支援、女性労働者の活躍等々。こうしたテーマの中には、これからの時代を考える上でそれぞれの会社が乗り越えなければならない、様々な課題が含まれています。
なぜなら少子高齢化のうねりがこれまでにないスピードでわが国を覆い、過去の成功体験が通じない時代に突入しているからです。90年代前半までは、生産年齢人口(15~64歳)が従属人口(14歳以下、及び65歳以上)を大きく上回っていましたが、生産年齢人口は減少の一途をたどり、2060年頃には生産年齢人口と従属人口が同水準になると試算されています。既にかつてのような経済成長を実現するには困難な時代に突入しているのです。
私たちは、このように中長期的な流れを見据えたうえで、足下の事業計画に沿った戦略的人事管理(賃金管理)をおこなっていかねばなりません。そして、このことは中小企業も例外ではないのです。
ニューノーマル(新常態)、ウィズコロナの時代は、新しい座標軸を探さなければならない、まさにパラダイムシフトの時代なのかもしれません。しかし、そうした激動の渦中にあっても、本コラムでは“不易流行”、すなわち本質を見極めつつ、新しく変化を重ねていくことを基本姿勢としたいと思います。
新シリーズにご期待ください。