11月も中旬に入ると、年末調整に加え冬季賞与の支給に向けた準備作業が本格化します。今回は、賞与支給のメリハリのつけ方に関するお話です。
賞与の本質は「利益の分配」にありますから、給与規程上は「賞与は会社の業績に応じ、個人の成績に応じて配分する」との定めを置いている会社が多いものと思います。法人企業統計などにみる企業業績の現状はというと、全体的には堅調に推移していますが、回復が遅れている業種もあり、賞与支給への影響か昨年よりも大きくなることが予想されます。
会社内でも事業部門ごとに業績の差が出ている場合、「事業部門ごとの業績貢献の違いを賞与に反映させたい」「メリハリある賞与配分でインセンティブを与えたい」という考えの経営者は多いのではないでしょうか。
実際に賞与支給時期になると「事業部門ごとにもっとメリハリをつけて配分できないか」という問い合わせを複数の社長からいただきます。ここには、社員一人ひとりの意識を高め、業績を安定的に伸ばしたいという社長の強い想いが感じられます。ただし、安易に業績格差を支給額に反映させようとすると、かえって社員のモチベーションを下げる可能性もあるので注意が必要です。
通常、評価者の評点には甘辛や集中分散などのクセや誤差が含まれるため、これを調整する手順を踏むこととなります。組織階層に応じて二次調整、三次調整と作業を重ね、等級別に順位と評語(SABCD)が決定されるまで調整作業は行われます。この一連の過程では自ずと部門間の成績格差も調整対象となります。
これに上乗せするかたちで部門業績による傾斜配分を行う場合には、特定部門にのみを厚遇する公平さを欠いた措置と受け取られ、社員全体の士気にマイナスの影響を与えるかもしれません。また、業績不良部門に優秀社員を配置してテコ入れしている場合など、見かけの業績と個人の貢献度が一致しないこともあるため、状況に応じた対応も必要です。
また、上位管理職になるほど重い結果責任を負うべきものですが、ライン職の組織マネジメントや部下の育成が十分でないような場合には、過度に部門業績に傾斜した配分は組織への不信につながる危険があります。部下にハッパをかけるだけのマネジメント力に乏しい部長でも、優秀な部下を抱えることで手厚い配分を受けられることになるからです。
事業部門ごとにメリハリをつけて配分すること自体はもちろん悪いことではありません。しかし、社員のモチベーションアップが期待できるかどうかは別途考慮が必要です。職位に応じた役割責任が正しく認識され適正な業績目標が設定されていること、そして企業業績への貢献が人事評価の結果として正しく賞与配分額に反映されていることが、納得性ある賞与配分を実現する大前提です。
評価結果や賞与について社員が納得できる配分とするためには、評価基準を明確にするとともに上位管理職の責任範囲を明確化すること、そして日頃の組織運営や部下指導においては個々の業務目標や責任の分担を明確にするとともに、部下に対する上司からの支援・指導が適時適切に行われていることも重要な要素なのです。
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