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- 第83回「今年の資産運用の展望」
4年連続の円安と株高で終わった2015年だが、今年の資産運用に関しては「潮目の変化」を意識する必要があるだろう。マクロとトレンドの視点から資産運用を展望してみたい。
マクロでは、米国が金融政策を9年ぶりに「利上げ、引締め」の方向に変更した強い経済を維持する見通しだ。一方、資源バブルが崩壊した新興国、ロシア・ブラジル・インドネシア・マレーシア・中東産油国などの景気減速が、金融市場の波乱要因になる懸念がある。既に金融緩和により流出した投資資金が、昨年から米国に還流している。これらの国々では通貨価値の下落によるドル建て債務の返済負担が景気を下押しし始めている。外貨建て資産運用に関しては、相対的に利回りの高い新興国通貨も、高いインフレ率が通貨価値の下落を招き、結果として円換算時には損失が発生することがある点に注意しておきたい。
中国については、上海株市場の安定回復による小康状態にあるが、経済の「新常態」への移行、即ち「投資と輸出主導」から「国内消費主導」への構造改革がどれほど進むかが焦点だ。今年は6.5%に経済成長目標を引下げたが、バブル後の日本と同様に過剰設備・過剰債務・過剰人員と人件費上昇後の高コスト体質は簡単には是正されない。国有企業改革を断行しなければ、国民所得1万ドル前後で経済成長が止まる「中所得国の罠」が現実味を帯びることになる。昨年夏、世界を混乱に陥れた人民元の切下げも再来が懸念される。
トレンドとして世界では、金融政策を引締めに転じた米国に対して、金融緩和を継続せざるを得ない欧州・日本、資源価格下落と景気低迷に直面した新興国、構造改革中の中国などから、投資資金が米国に還流する動きが続くと予測できる。日本は、アベノミクスの肝・成長戦略がTPP交渉の妥結以外に目覚しい進展が見られず、期待が剥がれる中で金融緩和も財政出動も打つ手が限られて閉塞感が強まる懸念がある。2020年東京五輪までは建設・インフラ整備の需要があるので関係業界の景況感は上昇しても、円安も賃上げも効果が限定的な輸出関連や消費関連業界の景況は、今年ピークを打ち3年続いた金融相場から業績相場への移行は、途半ばにして転換点を迎えるのではないか。
潜在的経済成長率が0.5%程度と考えられる日本が、アベノミクス新三本の矢の効果で、2020年にGDP600兆円、希望出生率1.8人、介護離職ゼロを実現して、名目3%/年の経済成長を達成するように期待したい。しかし現実は、物価上昇率も経済成長率も目標を下回る厳しさだ。気候変動やテロの拡散など、経済以外にも今年もさまざまな出来事や変化が起きることだろう。これらの変化に対応できるように資産運用に関しては、根拠の乏しい目標に過剰な期待をかけずに、世界の成長する国や地域、これらの通貨建て金融資産、成長産業・企業へと資金を傾斜配分することにより、堅実な運用成果を目指して頂きたい。
以上