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採用・法律

第137回『不適切なM&A取引』とは  

中小企業の新たな法律リスク

不適切なM&A

神田社長は、テレビ番組で「不適切なM&A取引」に関する特集が放送されていたため、詳しい話を聞こうと賛多弁護士の元を訪ねました。

* * *

神田社長:賛多先生お久しぶりです。先日、テレビ番組で「不適切なM&A取引」に関する特集が放送されていました。弊社にもときどきM&Aの引き合いがあるのですが、どのような問題があるか教えていただけますか。

 

賛多弁護士:私も同じ番組を見ていました。後継者が不在の中小企業のオーナー社長が事業承継のためにM&Aを利用したケースで、M&Aに当たり買い手が対象会社に設定されているオーナー社長の経営者保証の解除をすることを約しておきながら、M&Aが成立した後も経営者保証を解除しないことや、M&Aが成立した後に事業を放置することなどが問題となっているようで、ある買い手に買収された数十社の企業が同様の被害にあっていると放送されていましたね。

 

神田社長:事業を引き継ぐために会社を買収しておきながら、事業を放置するんですか?もう少し詳しく教えてもらえますか。

 

賛多弁護士:問題となっているケースでは、事業承継が前提となっているため、M&Aの対象となっている会社には潤沢ではないとしても、事業継続のための運転資金も含めて相当額の現預金があることが多いようです。

買い手は、M&A成立後に「親会社で資金管理を行う。必要に応じて資金を戻す。」などと理由をつけて、対象会社から別会社に資金を移動させた後、対象会社の事業を放置し、事業継続に必要な取引先への支払いや従業員の給与支払いもせず、結局、対象会社は資金繰りに行き詰まることになってしまう…というパターンのようです。

 

神田社長:そうすると、対象会社は最終的には倒産する可能性もありますよね。それだけならまだしも、売り手であるオーナー社長の経営者保証が解除されないのであれば、オーナー社長は対象会社の譲渡後も対象会社の債務も保証し続けなければならないことになりますよね。

買い手が、本来の目的である事業承継以外の目的、例えば、資金の抜き取りなどの意図を持っているかどうかについて、M&Aの成立前に判別するのは難しいと思うのですが、何か対策はあるのでしょうか。

 

賛多弁護士:中小企業のM&Aの場合、M&A仲介会社が大きな役割を果たしていますが、M&A仲介会社の多くが成功報酬型の報酬体系であること、M&A仲介会社の数も急増していることから買い手・売り手を十分審査せず、M&Aを成功させることに重点を置いているようなケースも散見されるなど、M&A仲介会社が必ずしも十分な役割を果たせていないこともあるようです。

 

神田社長:確かにテレビ番組でも、悪質な買い手はもちろん、M&A仲介会社への怒りを口にしているオーナー社長もいました。

 

賛多弁護士:中小企業庁も、中小企業の事業承継としてM&Aを利用する際の指針である「中小M&Aガイドライン」を8月に改訂し、M&Aの仲介会社に対して、不適切な買い手の排除に向けた取組として、買い手に対する調査(M&A契約を履行し、対象事業を引き継ぐ意思・能力を有しているか)、不適切な情報がある買い手に対する仲介を慎重に検討すること、業界内での情報共有の仕組みの構築といったことなどに取り組むべきであると明記されました。

今回のテレビ番組で不適切な買い手として取り上げられていた企業も複数のM&A仲介会社を利用し数十回のM&Aを繰り返していたようですので、個々のM&A仲介会社だけで対応するのではなく、業界全体での情報共有の仕組み構築というのは重要となってきます。

業界団体であるM&A仲介協会も不適切な買い手の情報を業界内で共有するための「特定事業者リスト」の運用を10月から開始しています。

 

神田社長:売り手の大半がM&Aに不慣れでしょうから、不適切な買い手の排除に当たって、M&A仲介会社が果たす役割は大きいですね。

 

賛多弁護士:もちろん、M&Aの当事者である売り手も主体的に関与する必要があります。

先ほどのガイドラインでは、売り手自身も、弁護士、公認会計士、税理士等の専門家や事業承継・引継ぎ支援センターなどのアドバイス(セカンド・オピニオン)を受けながら経営者保証の取扱いや表明保証の内容等について十分に確認することが重要である旨が記載されています。

 

神田社長:賛多先生ありがとうございます。まさかこのような形でM&Aが悪用されているとは知りませんでした。売り手としても、契約条項はもちろん、買い手に事業継続の意思・意欲や能力がどの程度あるのかしっかりと見極める必要がありますね。

* * *

中小企業のM&Aが事業承継の手法として広く認識されつつある中で、一部ではありますが、事業承継を目的としない悪質な買い手や支援体制が十分ではないM&A仲介会社が存在することも事実です。

思わぬリスクを避けるためにも、事業承継の際は弁護士をはじめとする専門家に御相談ください。

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 種池慎太郎

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