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人事・労務

第38話 人事制度の点検・見直し、始めていますか?(2)

賃金決定の定石

適切な賃金体系の設計方法

前回は、人事制度全般の基本システムとしての「等級制度」を中心に取り上げました。

そこで、3つに大別された等級制度(職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度)のうち、中小企業に有用なのは、「責任等級制度」に代表される役割等級制度であるとのお話をしました。

 

フラットで意思決定の早い、精鋭組織に直結する人事制度であることが何より大切なのですが、そのためには仕事基準の等級制度を採用すべきです。

等級制度というと大企業のような大きな組織にこそ必要なものであって、中小企業では等級格付に代表されるような社内の序列階層構造をつくる仕組みは不要ではないかという意見も聞かれそうです。

確かに、主任、係長、課長、部長といった職位が、単に社内の身分資格の序列を示すようなものでしかなかったら、生産性の阻害要因にしかならないかもしれません。

 

しかし、職制上の責任範囲を明確なものにするとともに、社員の成長の道筋を示す等級制度であれば、個々のキャリアパスとも連動して、社員が「ありたい自分」を重ね合わせることのできる仕組みとなるのです。

そして、この等級制度が賃金処遇の決定に直結する基幹となる仕組みであることは間違いありません。

 

仕事基準の等級制度であれば、等級区分の生産性に見合った賃金レンジを正しく設定すれば、仕事と給与のミスマッチも起こりにくくなります。

 

では、どのような賃金体系を設計するのが良いでしょうか。

 

1つは、月例賃金に占める基本給の割合を高くし、しっかりした水準で設定することです。

職能資格制度の下で、基本給を年齢給、勤続給、職能給に分けて運用することがかつて広く行われていましたが、基本給を幾つもの費目に分けたからといって合理的な運用が出来ることにはなりません。

社員は、「年齢分としていくら」「勤続褒賞としていくら」「職能の対価としていくら」とは考えないからです。月例給与のうち基本給が25万円の社員がいたら、社員にとってはその25万円全てが仕事の対価であり、生活給であるのです。

 

基本給を細かく分解することによって、基本給が将来どのように積み上がっていくかが解かりにくくなり、この解かりにくさは不安に繋がります。基本給は一本化し、所定内労働に対する「基本となる給与」として相応しい水準で設定することで、社員にとっても安心できるものとなります。 

 

次に大切なのは、昇給運用では、評価に基づいて昇給金額に適正な差を設定することで、長期間にわたるインセンティブ効果を持たせることです。すなわち昇給運用は、実力査定昇給としなければいけません。

定期昇給を、年齢や勤続年数などの年功要素のみで運用するものと決めつけ、定期昇給など時代遅れとする論調も時折見受けますが、これは全くの誤りといえましょう。

定年60歳まで「期間の定めのない雇用(無期雇用)」でフルタイム働くという正社員雇用の特性上、長期間にわたって給与が昇給していく定期昇給制度は、社員の定着にとって(とりわけ中小企業においては)非常に有効な仕組みなのです。

 

基本給の増額改定は、社員の側から恣意的(行き当たりばったり)などと思われることなく、常に運用ルールに則って正しく行われるということを、社内向けてオープンにするのが基本です。将来を見通せる制度設計でなければ、社員の定着など望めないからです。

 

なお、定期昇給とは自社の昇給ルールに基づいて昇給運用を行うことに過ぎず、評価によって昇給なし、またはマイナス昇給(減額)とすることも可能ではあります。

ただし、昇給スピードが緩やかな中小企業が、評価が低いからといって昇給ゼロや減額改定のような昇給調整を頻繁に行なうと、従業員エンゲージメントの面ではマイナスにしか作用しないので注意してください。

 

等級制度と賃金レンジや昇給イメージを示すと、下図のような隣り合う等級の賃金レンジが重なり合う「重複型」での運用が、役割等級制度(責任等級制度)を採用する場合には有効です。

賃金レンジの重複部分に相応の幅を持たせているので、昇格時には現行等級の基本給額をもって上位等級に円滑に移行することができますし、現行等級での責任が果たせず降格を検討しなければならないときも、基本給を大きく下げることなく下位等級へ戻すことができるという特徴があります。

 

これに対し、職能資格制度では、隣り合う等級相互の賃金レンジが重ならない「接続型」を用いることが一般的です。(下図)

 

自ずとそれぞれの等級の賃金レンジの幅は狭くなりますから、その等級の上限金額に早めに到達することとなり、「上位等級に昇格しない限りはそれ以上の昇給はない」という状況が生じます。このような状況下では、昇格させない限り昇給によるインセンティブが働かずモチベーションの低下が懸念されますから、現場を預かる管理職からは部下の昇格要請が人事部門に寄せられるようになるのです。

 

このような理由から、自ずと昇格運用の判断は甘めになりやすいという特徴があります。

基本給水準は、等級区分によって決まりますから、昇格運用が甘くなると、自ずと総額人件費も増加します。

したがって、昇格運用は経営判断に基づいて、厳格に行われなければなりません。

 

前出の重複型を用いた責任等級制をはじめとする役割等級制度であれば、等級ごとの賃金レンジが広いため、仕事(期待役割)と等級の関係をしっかり守りながらも、昇給の余地を確保することができるのです。

また、昇格させて上位等級の仕事にチャレンジさせてみた結果、十分に期待役割が果たせなかったという場合であっても、賃金上では大きなダメージを与えることなく元の等級に戻すことが可能となるのです。

 

中小企業の人事においては、機動的かつ柔軟な人事対応ができることは、重要な要素です。

適材適所の人員配置を行うという観点からも、昇降格への柔軟な対応が可能であるという点からも、重複型賃金レンジはたいへんメリットのある仕組みといえるでしょう。

(次回へ続く)

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