先般ご案内しました私の最新刊『非常識に売れる最強メニューがだれでもつくれる成功方程式』(2016年9月ぱる出版)では「おいしいという感情の点数化」にチャレンジしました。今回は予約の取れない天ぷら店『たきや』を点数化しながら、この店の人気の秘密を掘り下げましょう。
本書では、おいしいという感覚についてはいろいろ評価項目があるというさわりの話をしました。この評価項目は大きく、すでにブランド力や立地などできまってしまうおいしさと(基礎加点項目)、料理の内容、作りで大きく返られる(フリープログラム)にわけられます。これは、本が完成した後、フィギュアスケートのショートプログラムとフリープログラムに分けるとわかりやすいことを発見しました。 今回のコラムはこのことを前提にお話することにします。
基礎加点項目
まず、料理以外の評価となります“基礎加点項目”についてみていきましょう。こちらは、すでに決まっている条件で、オーナーの経歴や現状などのブランド力やその店のある立地などを点数化した項目です。経歴は“輝かしい経歴”と言われるタイトルにあたるものです。
●基礎加点項目 合計+125点
吉兆出身+20点、リッツカールトン東京出身+20点、
リッツカールトン大坂出身+20点、現在有名店+20点、
現在有名シェフ+20点、食べログ4点以上+20点、
麻布十番+5点
同じ麻布十番でも何もタイトルのない無名なシェフであければ+5点ですから、この基礎加点項目は馬鹿にできない項目だとわかります。
フリープログラム
フリープログラムは誰にでもプログラム内容を自由に組み合わせておいしさの表現ができるところです。基礎加点項目がない場合はこちらのプログラム編成をするときに、フィギュアスケートで言えば“四回転ジャンプ”を4回入れるようなことをすれば、ビハインドをリカバーできます。
では、各料理を見ながら検証しましょう。
1 『たきや』名物前菜八寸
カウンターに着席すると房総の450gの黒鮑は切りつけを始め、ひとつひとつ大きさが違う素敵な兎の器に盛り付けます。この小皿自体、松茸(+20点)としその花をのせた大原産(+10点)の黒鮑(+20点)を、最初に目の前でカットして(+20点)する加点の多いプログラムです。これを、キャビア(+20点)をのせた焼き茄子すり流しや、新イクラ(+15点)、カマスの寿司(+10点)、菊の浸し、山葵の葉をのせたもずくと十五夜の月に見立てた半月お盆に盛り付けます。
前菜八寸の加点
鮑+20点(最初に目の前でカット+20点)、大原産+10点、キャビア+20点、
イクラ+15店、松茸+20点、寿司+10点
(天ぷら店ではありえない食器)+20点
加点ポイント合計+135点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+60点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+30点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+70点
シェフが目の前で仕上げる+20点
絶妙な火入れ(中心レア)+10点
加点ポイント+65点
ゆずカボススダチみかんの掛け合わせをかけて
松茸+20点、さくっ+20点、ふわ~+20点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+80点
7 無花果の天ぷらに京鴨
かりっ+10点、とろ~+20点
熱い+冷たい→うまい+20点
よく知っている食材の意外な組み合わせでうまい+20点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+110点
サマートリュフ+20点
温玉+10点
加点ポイント+55点
甘鯛+5点、雲丹+20点、いくら+15点
かりっ+10点、ふわ~+20点、
熱い+冷たい→うまい+20点
意外な組み合わせでうまい+20点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+130点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+30点
シャトーブリアン+10点、さくっ+20点、
意外な組み合わせでうまい+20点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+108点
シェフが目の前で仕上げる+20点
加点ポイント+30点
松茸+20点、箱ごと提供+20点、
松茸だし+20点
シェフが目の前で仕上げる+20点
あり得ない高級食材の贅沢さ+20点
加点ポイント+100点
15 ポルト酒を隠し味にしたメロン
メロン+10点、意外な組み合わせでうまい+20点
加点ポイント+30点
デザートまで含めると1,113点の超高得点ですね。
基礎加点項目 合計+130点と併せて、1,243点です。
これはなかなかない、四回転ジャンプを4回飛ぶようなプログラムエレメンツです。凄いです。
マイナスプロトコール
最後に、減点材料をチェックしましょう。基本的に、高級料理店がしっかり味決めができていれば、上記のプログラムに組み込んだ“四回転ジャンプ”は成功です。しかし、ジャンプに失敗すると加点されません。実際、『たきや』の運営は隙がなく、減点材料はほとんどないと言えるでしょう。
唯一、あるとすると大きな減点材料となる、コストパフォーマンスでしょう。続いては、コストパフォーマンスを検証してみたいと思います。
まず、下記の事前期待会計額と実際の会計金額のギャップ(満足度)調整指数表をご覧ください。こちらの係数をかけるとコストパフォーマンスの調整ができます。
事前期待会計額と実際の会計金額のギャップ調整指数
事前期待会計額 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
19,500円~26,900円 |
14,000円~19,500円 |
9,800円~14,000円 | 7,000円~9,800円 | 5,000円~7,000円 | 3,500円~5,000円 | ||
実 際 の 合 計 額 |
5,000円~7,000円 | 2.2 | 2 | 1.7 | 1.4 | 1 |
0.7 |
7,000円 ~9,800円 |
2 | 1.7 | 1.4 | 1 | 0.7 | 0.58 | |
9,800円~1,400円 | 1.7 | 1.4 | 1 | 0.7 | 0.58 | 0.5 | |
14000円~19500円 | 1.4 | 1 | 0.7 | 0.58 | 0.5 | 0.45 | |
19,500円~26,900円 | 1 | 0.7 | 0.58 | 0.5 | 0.45 | 0.42 | |
26,900円~37,700円 | 0.7 | 0.58 | 0.5 | 0.45 | 0.42 | 0.38 |
高級天ぷら店というと税込19,500円~26,900円くらいを想像でしょう。
『たきや』の実際の支払額は33,300円くらいから34,000円です。したがって、事前期待会計額と実際の会計金額のギャップ(満足度)調整指数の0.7を上記に乗じます。
1243点×0.7 = 870点
となります。大きく点数は下がりますが、かなりの点数ですね。
ただし、2回目の以降の来店客はこの支払い額にある意味納得しておりますので、調整指数は1となり、1,243点、そのままの評価を得ます。実際、『たきや』はリピーターが多いという事実がこの点を裏付けているように思います。