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交渉力を備えよ(28) 文化、理念は大きな発信力をもつ

指導者たる者かくあるべし

 ロシアの太平洋艦隊長官のマカロフが座乗していた戦艦が旅順港口で機雷に触れて轟沈、マカロフが戦死した報は世界を駆け巡った。

 1904年4月13日のことである。高橋是清がロンドンに到着して2週間。任務として託された戦費調達の糸口がどうにも見いだせず苦心していたころである。

 マカロフは軍人であると同時に海洋学者でもあった。彼の著した『戦術論』は、実戦的な海軍運用理論書として高く評価され、世界中の海軍学校の教科書となっていた。日本とて例外ではなかった。世界中が弔慰を表した。さて日本はどうするか?

 そのころ、日本政府の広報役として貴族院議員の金子堅太郎は米国の世論を味方につけるため米国に滞在していた。

 金子は、マカロフ戦死の翌日、ニューヨークで名士を集めたパーティで、挨拶をこう結んだ。

 「わが国は今やロシアと戦っている。しかし一個人としてはまことにその戦死を悲しむ、敵ながらも我輩はこのマカロフが死んだのはロシアのためには非常に不幸であると思う。マカロフ大将も祖国の為に今やまさに戦わんとするときに臨んで命を落としたことは残念であろう」。心からの弔慰を表明したのである。

 ロシアも開戦後、米国で世論工作を展開していた。しかしそれは新聞紙上で黄禍論や日本人が異教徒であることを強調するというネガティブキャンペーンであった。

 マカロフに対する弔慰は、金子に限ったことではなかった。日本の在外公館は各地で弔慰を表した。ロシアのあけすけな世論工作とは違う日本の態度は、英国でも好感をもって報じられた。

 当時の欧州の軍人は、騎士道精神で貫かれていた。日本人が垣間見せた武士道精神に宗教の違いを越えた共通の価値観を見出したのだ。

 日本への金融支援にためらいを見せていたシティの風向きは一気に変わった。「日本は信頼できる」と。勝機は戦勝によってではなく、意外なところから訪れたのだ。

 高橋は、4月初めから、水面下で情報を収集し、米国の投資家も巻き込んだ起債の可能性を追求し続けていた。そこへ追い風が吹くことになった。

 「この時を逃してはいけない」と高橋は一気に動きはじめる。   (この項、次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『高橋是清自伝(上、下)』 高橋是清著 上塚司編 中公文庫
『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち』 板谷敏彦著 新潮選書
『日露戦争史』横手慎二著 中公新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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