後継者を中心にした次世代経営チームを育成し、多くの指導先で第二・第三次創業を支援してきた実力コンサルタント、酒井英之氏に最近の若手社員の傾向や、効果的な離職対策、新人育成の仕組みづくりのやり方などを伺いました。
【酒井英之氏について】
「経営課題の解決」と「次世代経営チーム育成」を同時に達成する〈チームV字経営〉の創始者。ブラザー工業でP-touchの考案に携わった後、コンサルタントに転身。金融系シンクタンクで経営戦略部長などを経て、2014年にV字経営研究所を設立。コンサルタント歴は30年を超え、これまでに指導してきた中小企業は500社を超える。
-最近の若手の傾向と離職を防ぐ効果的な方法を教えてください。
私は仕事柄、社長や後継者以外にも、Z世代と呼ばれる若手社員を指導することがあるのですがその中で興味深い傾向に気がつきました。
それはZ世代の社員は、入社するまでずっと「個」として扱われてきたということです。
団塊の世代から40代くらいまでの社員は、学生時代から基本的に集団として扱われ、呼ばれるときも呼び捨てでした。
一方Z世代は、学生時代に絶対に呼び捨てされていない。大概「〇△さん」と呼ばれてきました。
それをいきなり、会社に入ったら呼び捨て。新人教育のやり方も新人という「集団」で扱い、個々人にあわせた具体的な育成プランがないまま漠然と指導してしまうと、そのギャップから離職の引き金を引いてしまいます。
ですから、社長には、「昔とは違います。若手社員を『個』して捉え、個人にあわせた人材育成の仕組みをつくることが重要です」と進言しています。
若手の育成・定着が上手い会社は、たいがいこの「人材育成の仕組み」があります。
これは、滋賀県のとあるメーカーでの指導事例です。
その会社には昨年、文系の大学生が3名入社しました。彼らは就活が上手くいかず、半ば仕方なしに入社してきたという経緯から、不安を抱え、コミュニケーション能力もお世辞にも高いとは言えませんでした。
とはいえ人手不足のいま、製造部に配属となった彼ら3人を絶対に早期退職させてはいけません。
そこでその会社では、次のようなプロジェクトを進めました。
それは、入社してから習得して欲しいスキルや技能を見える化した「成長見える化シート」を作成し、「見て学べ」であった社員教育を、再現性のある仕組みにするというものです。
この会社では、まず入社してから2か月間に習得して欲しいスキル・技能に加え、いましている業務がどのような仕事につながっているのかを1枚のシートにまとめました。
これを新人社員に共有することで、社員は「この会社には人材育成のしっかりとしたプランがあるんだ!」と安心します。
これに加えて、仕事の全体像もつかめるので、次にやるべき(覚えるべき)仕事も分かります。
成長見える化シート作成のポイントは、具体的な仕事に分割して、リスト化することです。
例えば、パソコン関連の仕事であれば、「パソコンが使える」のようなざっくりとした表現ではなく、「納品書が作成できる」、「売上表に入力できる」といった形に分割します。
イメージとしては、スイミングスクールのカリキュラムです。いきなり「クロールで泳ぐ」といった指導ではなく、まずは「顔を水につけられた」、「水の中で目をあけられた」といった形のスモールステップに分割します。
このシートを1on1ミーティングの中で上司ができるようになった箇所をチェック、フィードバックしていくことで自分が会社で成長していることを、視覚的にも実感できるようになります。
私は、指導先で1on1ミーティングの実施を強く推奨しています。というのは、離職を引き起こすもう一つの原因が「社員とのコミュニケーション不足」にあるからです。
私は、人へのマーケティングと呼んでいますが、「個」を重視する時代では、まずは個々人の要望を聞き、可能な限り応えていくことが重要です。
また、新入社員の場合は、上司やメンターの社員が毎日会話をすることも大切です。要するに”ひとりぼっち”にしないということです。
よく、「1on1ミーティングや日々の会話で何を話せばいいのか分からない」という疑問を耳にしますが、「成長見える化シート」があれば、それをもとに会話を進行することができます。
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