いま全国の中小企業で、事業承継がおこなわれています。大手金融系シンクタンクの経営戦略部長兼プリンシパルを経て、V字経営研究所を設立、これまでに約400社を指導してきた酒井先生に、次世代の経営者を育てて、業績向上と事業承継を同時に実現する「チームV字経営」の狙いと、その成果を詳しくうかがいました。
■酒井英之(さかい ひでゆき)氏
V字経営研究所代表、〈チームV字経営〉創始者
慶應義塾大学経済学部卒業後、ブラザー工業に入社。ミシン事業に代わる新事業が不振の中、 「起死回生の商品を作れ」という特命を受ける。若手メンバーのみでラベルライター「P-touch(ピータッチ)」を考案。全米でシェア60%を超える大ヒット商品へと成長し、ブラザーがミシンメーカーから情報機器メーカーへと大きく飛躍する一翼を担う。その後、大手金融系シンクタンク の経営戦略部長兼プリンシパルを経て、2014年、「次世代のリーダーを育てて百年企業への成長をガイドする」をミッションにV字経営研究所を設立。先代が超えられなかった壁を打ち破り、最高益を達成する後継チームを多数輩出している。蔭で人を支える「人生送りバント」をモットーに、現場に深く入り込んで粘り強く指導する姿勢に、経営者、後継者、幹部社員のなかに強烈なファンがいる。
Q:酒井先生は、後継者を育てるときに、後継者1人を育てるのではなくて、将来の幹部社員も一緒に育てるということですが、それはどういう理由からですか?
会社は、経営者の器に比例すると言われますが、まさにそのとおりです。 会社を長期にわたって成長させてきた経営者の器は、会社の成長とともに大きくなったものです。
ですから、先代社長の器と後継者の器を比べれば、後継者のほうが圧倒的に経験が少ないから、その差は歴然としていて当然です。
これが後継者が頼りなく見える理由ですが、しかし会社を何代にもわたって発展させるには、後継者にバトンタッチする必要があります。
そこで、この後継者の頼りなさを、将来の幹部社員数名で埋めて、後継者一人ではなくチームとして事業承継を成功させるというのが「チームV字経営」の目的です。
Q:「チームV字経営」という本を出版されました(2017年3月刊行)。そもそも「チームV字」とはどういう意味ですか?
V字というと、すぐにV字回復をイメージすると思いますが、私が言う「チームV字」の「V字」とは、渡り鳥が飛行するときのV字編隊のVを指して言っています。
ご存じのとおり、渡り鳥は目的地を目指して何万キロも編隊を組んで飛行しますが、飛ぶときの形はV字です。 なぜV字で飛ぶかというと、前方で飛ぶ鳥の翼から上昇気流が発生して、その浮力で斜め後ろで飛ぶ鳥は楽に飛ぶことができ、同じエネルギーで1.5倍から1.7倍も遠くに飛ぶことができるからです。
しかも、先頭を飛ぶ鳥は、必ずしもリーダーではありません。疲れると交代し、また先頭になろうとしないタダ乗りの鳥もいません。つまりすべての鳥が協力しあって飛んでいくのです。
この渡り鳥のV字編隊飛行こそ、チームV字経営の目指す姿です。
つまり、後継者を中心とする後継チームは、チーム全員で力を出し合って将来のビジョンを目指して進んでいくのです。とくに今のような成熟した社会の中では、後継者一人が時代の流れを読み切って、先代のようにワンマンで経営するのは非常に難しい時代です。 また後継者一人にその任を負わせるのは、後継者にとっても重荷です。
Q:これまでいろいろな業種の会社に、チームV字経営を指導されて、どのような成果が出ていますか?
まず、チーム全員で会社の現状を分析して、業績が凹(へこ)んでいる事業は、凹み脱出プランを立てて実行し、短期間に目標を達成してもらいます。 この点では、チームV字のV字は、V字回復のVでもあります。
凹み脱出プランを実践することで、チーム全員でPDCAを回す訓練を積み、成長への足場を固めます。
そのうえで、次世代のビジョンを開発、明日の商品・事業づくり、さらに社員の主体性を伸ばす仕組みを入れる──というように、5つのステップを踏んで、第二、第三の成長曲線を後継チームがつくりながら、事業承継をおこなうのです。
たとえば、クライアントの一つの商社では、後継者が50歳半ばでしたが、30代、40代の幹部候補社員とともにチームを組み、5ステップを実践しました。その結果、売上が138%upし、社員が主体性を発揮する社風に生まれ変わりました。
別の会社では、後継者が50代前半、先代社長が80歳代でしたが、売上が164%up、後継者も幹部社員もともに成長して、アジアに同時に複数の拠点をもてるまでになりました。事業承継もスムーズに進んでいます。
別の鉄工所では、売上150%up、業界シェアも36%から45%に拡大。
いずれの場合も、後継者チームが業績を上げ、自分たちがつくったビジョンを全社員で目指す体制ができました。先代社長にも喜んでもらっています。
(聞き手/岡田万里)
「愛読者通信」(2017年7月)掲載