昨今、焼肉やしゃぶしゃぶの食べ放題という業態をあちこちで見るようになった。かつて、焼肉やしゃぶしゃぶの食べ放題店はあちこちで産声を上げ、しばらくは活況を呈するのであるが、いつの間にか消えてしまう業態の典型であった。その収益化しにくい業態を収益化して、現在の食べ放題全盛をけん引したのが同社である。
同社が食べ放題で成功業態を作ったポイントには二つある。従来の肉の食べ放題のセオリーは、安い肉とバイキング方式であった。それに対して、同社はおいしい肉とテーブルサービスで業態を作り上げた。もちろん、単純にその二つを行ってもなかなか簡単には儲からない。
単純にテーブル方式で、食べ放題をやれば、売上は上がるが、原価も上がり、レイバーコストも上がってしまい儲からない。それを回避する大きなポイントは、いかに原価をコントロールするかということになる。
メニューそのもの、料金のラインナップによってコントロールすることもその一つである。同社では、食べ放題のコースが3つある。58品で2,480円、100品で2,980円、120品で3,480円(各消費税別)としているが、ここでのポイントは、顧客は真ん中を選びやすいということである。そしておそらくそれを後押しする要因として、58、100、120という割り振りもポイントになり、真ん中がお得そうに見える。なお、その後の値上げによって現在の3コースは2,680円、2,980円、3,980円となっている。
次がいかに安い原価のもので満腹にしてもらうかということになる。焼肉店ではあるが、牛肉以外に豚肉や鶏肉のメニューを増やすことで、顧客にすれば選べる幅が広がる一方、店側とすればそちらを頼んでもらえば原価が下がるという仕組みである。
メニュー自体にも秘訣があり、頼みやすい商品、頼まない商品、あこがれの商品などを組み合わせて、食べる量をコントロールして、客単価をコントロールするということである。これは実際店舗を運営しながら徐々にノウハウを蓄積して行くものであろう。
また、種類をたくさん頼んでもらうため、一皿の量を減らすということもある。一皿の量を減らすと、あれもこれも頼むため、高いものばかり頼まないようになるということがある。
最後は一般的ではあるが、タッチパネルの導入によってレイバーコストを下げるということは必須である。要するに配膳より、オーダーを聞きに行く方の手間がかかるということである。
このようにして同社は食べ放題業態で高成長を遂げた。表は同社の業績推移であるが、この10年ほどで売上、利益とも5倍ほどになっている。
しかし、同社の成長性、収益性が高いことから、当然、同社を研究して、同社の模倣をする企業も現れてくる。その結果、現状の肉の食べ放題店の乱立という状況がある。そのため好調に推移していた同社の焼肉店の既存店も2016年を通じてマイナスに推移することになった。半期ベースの焼肉の既存店売上高を見ると、それまでプラスで推移していた売上高が、2016年は1-6月が1.4%減、7-12月が3.0%減となった。
当然のことながら、これまでは継続的に経営している肉の食べ放題店が少なかったことから、食べ放題に行きたければ、同社に来たわけである。しかし、あちこちに食べ放題店ができたことで、他の選択肢があることからライバル店に行く顧客も増えたということである。
もちろん、同社もライバル店の出現に手をこまねいていたわけではないが、ライバル店が出現すれば、一度そっちに行ってみようという人がいてもおかしくはない。結果的に両者を比較して次からは満足度の高い方に行くという行動になろう。
これまでも同社は業態ブラッシュアップに様々な手を打ってきたが、一例としてこの1年ほどの経営施策について述べてみよう。
同社の焼肉食べ放題には、3つのコースがあり、最も注文の多い中価格帯が2,980円(税抜き)である。まずは新グランドメニューの導入がある。中価格帯以上のコースではないと注文できない商品に熟成極厚の肉を導入して魅力度アップを図った。同時に盛り付け方やつけだれ、もみだれの質も改善して提供した。なお、同社はコースメニューの値上げを行っているが、低価格と高価格の値上げのみで、もともと注文数の多い中価格の価格は据え置いているのもみそである。
また、商品とは別にサービス向上策としては注文を受けてから2分以内に料理を提供するようにサービスを改善した。
メニュー自体にも工夫を加え、扱いやすく、注文がしやすく、きれいでわかりやすいメニューづくりにも力を入れた。加えて、注文するタッチパネルも店長の見える画像構成にし、親しみやすいものにしている。
このように矢継ぎ早に戦略的な改革を行ったことで、2017年になると既存店はプラスに転じ始めて、1-6月の既存店は1.8%増と見事に回復した。
有賀の眼
競争の激しい外食産業において、業態のブラッシュアップはどんな企業でも常に経営の中心に置いて、継続的に行っていることである。これを企業ごとに定量的に比較することは非常に難しいが、同社に対する印象はそれが極めてねっちこく、徹底的に行っているということではないだろうか。
この辺りはうまく伝わるかどうかはわからないが、会社の執念のようなものを感じるのである。
決して、トップ企業としておごることなく、常に改善を行って行くこの姿勢というものは、大いに見習うところがあるのではないでしょうか。