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チェーン展開をする小売業という業態は、各業態、あるいはいくつかの業態を組み合わせて、店舗フォーマットを確立して、効率的に運営するノウハウを確立することが重要です。そのフォーマットは同時に消費者の支持を受ける品揃えを伴う必要があります。同社はドラッグストアの業界にあって、他社とは一線を画すフォーマットを確立しつつあるユニークな企業です。
上位企業では唯一、ドラッグストアに対するM&Aを行わず、上位企業と売上高でも、利益でも競える企業として、今後ともユニークな位置を確保し続けると考えられます。
同社は北信越エリアを地盤としながら、東北エリア、関東エリア、東海エリア、関西エリアへとエリア拡大を成し遂げてきました。2023年5月末の店舗数は、北信越エリアが356店、関東エリアが252店、東海エリアが161店、関西エリアが71店、東北エリアが63店、合計903店舗となっています。
まず同社では2010年から300坪のフォーマットで店舗展開を始めました。これは従来から扱ってきたヘルス(医薬品や健康食品等)、ビューティ(カウンセリング化粧品やフェイスケア商品等)、ライフ(家庭用品等)に加えて、消費者のワンストップショッピングニーズに対応したフード(食品、飲料等)を強化した店舗です。また、一部の店舗では、調剤(薬局にて処方する医療用医薬品)を併設する店舗もあります。
このフォーマットの確立によって、同社は2009年から2019年までの10年間に、売上高は5倍、営業利益は8倍に増えました。年率で、17.6%増収、23.4%営業増益となります。この間、500億円弱の売上は2,500億円に、17億円だった営業利益は141億円になりました。
さらに、2014年辺りから模索を始めたのが、それまでの加工食品に加えて、生鮮3品を取り扱うことでした。しかし、いきなり生鮮3品の取り扱いは難しいため、まずは専門業者に売り場を提供するコンセという形でした。それでも専門業者から販売員も来ますから、それなりの店舗面積が必要で、450坪のフォーマットの構築に取り組みました。
しかし、これはなかなか効率も上がらないこともあり、2020年からは生鮮の内、青果、精肉は自社での取り扱いをする形で、次世代フォーマットとして400坪パターンの構築に取り組み始めました。そして、このコロナ下での試行錯誤から、400坪パターンのフォーマットにおいて、生鮮の取り扱いノウハウが蓄積されたことから、まず当面は300坪店舗に全面的に生鮮の導入を進めます。
このような生鮮強化の取り組みによって、全店舗に占める生鮮導入店舗の比率は、2021年5月期の13.8%が2023年5月期には60.4%に、そして2024年5月期には90.5%までの導入を目指しています。ドラッグストアでも生鮮の扱いはありますが、ここまで本格的な生鮮の取り扱いは大手では同社が最も進んでいます。
この生鮮の取り扱いで最もユニークなのが、各地域において、中小の食品スーパーを次々と子会社化や事業譲受、もしくは吸収合併を行っていることです。ドラッグストア業界はM&Aが盛んですが、その大半は中小ドラックストアに対するM&Aで、同社のように食品スーパーをM&Aするケースは極めてレアです。同社では2020年6月の第1号からすでに8社のM&Aを終えています。
食品スーパーにM&Aを行う意味合いは、生鮮のMD(商品政策)は加工食品やドラッグ製品と異なって、極めて地域密着性が高いためで、同社は既存企業の買収によって、そのノウハウを取り込むということです。
このように、極めてユニークな形で、消費者のワンストップショッピングニーズへの対応を進め、まさに唯一無二の業態開発で新たな小売業の姿を目指すのが同社です。
有賀の眼
実は、同社が行っている地域密着の食品スーパーへのM&Aは、業界内ではかなり異質ですが、食品流通構造論から見て、極めて効果的な方法と考えられます。
わが国の食品流通は、加工食品卸売業の機能が高度に進化したことによって、この20-30年間に地域密着型の食品スーパーの圧勝となっています。食品流通の競争構造を考えると、いわゆるイオンやイトーヨーカ堂に代表されるGMS(総合スーパー)とヤオコーやベルク、ハローズといった地域密着型の食品スーパーの戦いです。
そして、自前で物流網を構築し、MDを行うGMSが、それらを加工食品卸売業の高度な機能に依存し、自らは地域性の強い生鮮のMDに特化した食品スーパーの圧勝に終わっています。全国各地で立ち上がったGMSも今やイトーヨーカ堂さえ風前の灯火で、唯一イオンのみが残っていると言ってもいいような状況ですが、そのイオンもすでに拡大する力はなく、収益性も一向に上昇しない状況に陥っています。
つまり、わが国において食品小売業で成功するためには、地域密着の生鮮MDは必要不可欠です。しかも、生鮮MDは仕入れ先の開拓も含めて、一朝一夕に成し遂げられるものではないため、同社の食品スーパーのM&Aは極めて有効な手段ですが、このことに気付いている同業他社は今のところ皆無で、当面、同社の独壇場が継続すると考えられます。