食品を中心とする小売りのマーケットは、GMS(総合スーパー)の衰退を受けて、コンビニエンスストア、食品スーパー、ドラッグストアが成長業態として、日に日にその存在感を高めている。それ以外にはほとんどチェーンとして成長している業態は見当たらない。
その中にあって、すでに800店舗のチェーンを展開し、今なお成長を遂げているのが神戸物産の運営する業務スーパーである。業務スーパーは本来、小規模外食店向けの小売店としてスタートしているが、現在の売上は一般消費者向けが80%前後と、通常の食品スーパーと大差ない売上構成となっている。
神戸物産は業務スーパーをほぼ100%FCで展開しており、本体は形式上セブン・イレブンなどコンビニと同じく卸売業という業種分類となる。この10年間に同社の売上高は2.7倍、経常利益に至っては9倍となり、10月に終わる2017年度の経常利益は第3四半期までの実績を見る限り150億円に達する勢いである。食品スーパー大手のヤオコーの2018年3月期の予想経常利益が150億円弱であり、10年前は78億円であるからいかに同社がハイスピードで成長を遂げているか理解できよう。
同社の扱う商品は4,000アイテムと極端に少ない。基本的に生鮮品は扱わず、生鮮品は冷凍であり、チルドの日配も扱わず、加工食品はNBも扱うがトップ商品は扱わないことが多い。その分、仕入れ価格が安くなるうえ、同社ではNB商品に関しては粗利を1%しか抜かずにFC店に卸す。その代わりに、子会社に多くの食品メーカーを抱え、PB商品を生産して、PB商品の製造販売で利益を上げる仕組みである。
FC店の利益は開示されていないが、FC店800店舗のオーナー数は100ほどであり、各オーナーが運営店舗数を増やしているところを見ると、FC店も着実に収益を稼いでいるものと推測される。この辺りは、昨今耳にするコンビニのFC店の苦境とは状況がかなり異なるものと考えられる。
近年、同社の売上の伸びを利益の伸びが大きく上回っているが、これは収益性の高いPBの構成比が高まっているためである。
同社のPBで構成比が高い商品は、冷凍の食肉や野菜であり、売上が最大の商品はブラジルから輸入する冷凍の鶏のもも肉2kgの商品である。この店頭売価は700-800円と単純にスーパーの店頭での価格と比較すると、単価にかなりの割安感がある商品となっている。
このほかにも大容量商品では1kg200円のベルギー産の冷凍フライドポテト、冷凍の鶏串が50本で1,000円弱など様々な商品がある。ただし、そんな大容量の商品が売れるのかという疑問が生じよう。確かに単価は低いが、一般家庭では扱いにくいと考えられる商品である。しかし、最近はネット上でSNSを通じて消費者が情報を共有することにより、使い方や家庭での保存法などが広がっており、大容量品も意外なほど売れるようである。この点に関しては、生鮮3品に特化した食品スーパーのジャパンミートでも同じような表現をしている。ジャパンミートは冷凍品も込みで生鮮のウエイトが60%を占める食品スーパーであるが、特に生肉の大容量品(1kg)などを低単価で扱っている。
一方で、同社はそのような大容量品と並行して、他社で扱っていないような珍しい商品を開発輸入あるいは自社製造PBで販売している。これも昨今はインスタ映えなどの言葉もあるように、こじゃれた商品を探し当ててネットに画像を掲載する消費者が増えており、業務スーパーへの来店動機となっているようである。
例として挙げれば、買収した牛乳工場では、牛乳パック入りの各種スイーツを製造している。内容量が1kgで価格は300円以下であるが、おそらくは業務スーパー以外で見てもスルーされるような商品であるが、それを楽しんでブログで解説する消費者も現れている。
会社側でも最近はそれを意識して、積極的にマスコミやネットで商品情報を発信しているようである。また、マスコミでもしばしば取り上げられている。
有賀の眼
同社はいわば食品ディスカウンターである。食品ディスカウンターは消費者から見るとわかりやすく、しかも初期のオペレーションはそれほど難しくないため、急成長で注目を集めるケースが多い。しかし、価格というライバルにもわかりやすい差別化であるため、さらにローコストの企業が現れると、急速に競争力を失う。特に主たる顧客が価格で引き寄せられるいわば価格ロイヤリティの高い消費者であるため、比較的短期間で壁に当たることが多い。
その中で小売業としての大企業の域と言える100億円の営業利益を超えた企業の代表が神奈川のオーケーと岐阜のバローである。しかし、両社とも2010年前後に150億円前後まできた営業利益(オーケーは経常利益)が、2010年代はほぼ横ばいである。2000年代には比較的高い成長を遂げた食品小売業が多い中、その失速感はかなり目を引く。
この間にその2社に代わって、高成長を遂げたのがコスモス薬品と同社である。図にはないが間もなく終わる同社の2017年10月期決算の営業利益はおそらく150億円を超えると思われる。
ただし、コスモス薬品はドラッグストアであり、食品を集客手段として使って、薬品、化粧品、日用雑貨で稼ぐパターンであり、他の3社とはかなりビジネスモデルが異なる。コスモス薬品の今後も気になるところであるが、ひとまず今回は置いておく。同社を含む他の3社は食品を安売りして、食品で稼ぐパターンである。この3社の戦略は似ており、品数を絞って各カテゴリーの2番手以下のブランドを大量陳列する方式である。もっとも、最近はその販売力の強さから、トップブランドメーカーとの取引も増えているようである。
ただし、同社でも述べているが、かつてほどはNB商品での価格差は付けにくくなっているのが実態である。つまり、それ以外部分の差別化が必要となってくる。それに対して、ブランド志向の低いカテゴリーにおいて自社製品のPBを製造する仕組みを持つ同社の戦略は、今後とも他社との大きな差別化要因になってゆくのではないかと考えられる。