■有賀泰夫(ありがやすお)氏
1982年から約40年間にわたり、アナリスト業務に従事し、クレディ・リヨネ証券、UFJキャピタルマーケッツ証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券…等で活躍。主に食品、卸売業、バイオ、飲料、流通部門を得意とし市場構造やビジネスモデル、企業風土等に基づく分析と、キャッシュギャップを重視した銘柄分析、売上月次データから導き出す株価10倍銘柄発掘の手法に定評がある。日経アナリストランキングにて常にトップグループをキープする実力派としての活躍し、09年独立。小売業、IT企業にカバー分野を拡げ、機関投資家や個人資産家向けに、独自の分析情報を提供。著書に「日本の問屋は永遠なり」(大竹愼一氏との共著)、講話シリーズに9年に渡り的中率90%を誇る「株式市場の行方と有望企業」シリーズと株式投資の考え方とやり方をテーマ別に解説する「お金の授業 株式投資と企業分析」シリーズがある。
PRTIMESはプレスリリースを配信する企業である。プレスリリースを辞書で検索すると、官庁・企業・団体などが広報のために、報道関係者に向けてする発表やそのために配布する印刷物のことを指すとなっている。そして、一般的には官庁・企業・団体などの担当者が関係する報道関係者に配信、もしくは配布するものである。
同社はそのプレスリリースを官庁・企業・団体などに代わって配信することを業務とする企業ということになる。この字面だけを取ると、それほどニーズがあり、付加価値が高いとは思われないビジネスである。しかし、同社の直近6年間の年平均成長率は、売上高で28%、営業利益で56%となり、直近の営業利益率は35%に達する。売上高は38億円、営業利益は13億円である。
一体どこに付加価値があるのだろうか。Wikipediaによると、「ほとんどのプレスリリースは、実際には記事にしてもらえない。発表する側の組織内では「重要な情報」だと思われている事柄でも、報道機関や通信社に「記事にするに値しない」(たとえば「ニュース性が無い」「掲載に値しない」「消費者が関心を持っていない」など)と判断されれば、記事にはならない。メディアの掲載可能スペースも限られており、情報を読者や視聴者に「届けるに値するもの」と「届けるに値しないもの」に、それぞれの判断で取捨選択することも、報道機関や通信社の重要な仕事である。」となっている。
ここが大きな同社のビジネスのキーがある。つまり、同社が参入する以前のプレスリリースは、まさにプレス向けのリリースであり、本来、届けたい最終ユーザーである消費者に届くか届かないかは、メディア側の判断にゆだねられるものであった。それに対して同社が構築したビジネスモデルは、そのプレスリリースがメディア編集者だけではなく一般の消費者にも直接届くような仕組みに変えたということである。
同社がそのようなサービスを始める以前は、企業にとって、せっかく作成したプレスリリースが、日の目を見ず、葬られてしまう状況であった。もちろん、コストをかけられるような商品であれば、コストをかけて大々的にコマーシャルを打てばいい。しかし、そのためには莫大なコストがかかるのである。それに対して同社では広告費に比較したら圧倒的なローコストで、広く知らせることができる体制を構築したわけである。
2021年11月末現在、同社のサービスを利用している企業は62,415社に及び、その中には上場企業が1,919社含まれている。これは上場企業の49.3%に相当する企業数である。それらの企業から請け負うプレスリリース数は2021年11月の1か月間で28,534件と1企業当たり5本弱となる。
配信メディアリストは11,814媒体あり、個人のライターなどのメディアユーザー数は22,559名となっている。また、自社サイトも運営しているが、同社サイトの月間閲覧数は2021年8月時点で5,880万PVに達する。加えて、同社自体がメディアに取り上げられる件数も増えており、2021年9月-11月の3カ月間で65件、前年同期比75.7%増となっており、これも同社の利用価値のひとつとなっている。
有賀の眼
自然体で考えれば、価値の低い仕事と思われるような仕事でありながら、そこに価値を生み出すという観点でビジネスを構築すると、全く新しい価値が生まれる典型ではないかと思われる。プレスリリースという価値ある素材をせっかく作っても無視されることもあったわけであり、その価値の顕在化を行うビジネスモデルは利用企業にとっても極めて利用価値の高いサービスに変わった典型ではないかと思われる。
こんな意外なところにもビジネスの芽はあるものだと、同社のビジネスを見ていて感心させられるところである。