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社長業

第10回「自分」の物語を持つこと

繁栄への着眼点 牟田太陽

 初代には創業時の物語がある。 二代目にはそれを伝える義務がある。 では、自分の物語はどうなのか。そんなものは終わってみるまでわからない。 宇都さんという親しい創業社長がいる。整骨院を何店舗か経営をしている。整骨院というのは2000年当時から比べると会社数が倍になっているという熾烈な争いの業界である。 店舗を構えたら、天井にカーテンレールを引き、その中にベッドを入れるわけだが、そのベッドの数が決まればそこで売り上げの限界が決まってしまう。
 宇都さんは、「それでも頑張ってくれた社員さんの給料を毎年上げていきたい」と考え、出店計画を立てるため、無門塾の門を叩いた。
 最初に事業発展計画発表会を開催した時には会社も小さく、お金も無く、同期生と割り勘にして会場を借りた。
 社員数も少なく規模も小さい発表会であったが、その発表会で私は忘れらない光景を見た。
懇親会も終わり司会者から中締めの挨拶を促されると、宇都さんは壇上にゆっくりとした動作で上がった。
 「実は、僕には兄がいました。その兄は私が17歳の時、20歳という若さで突然死をしました。原因はわかりません。母が起こしに行くとベッドで冷たくなっていました。その瞬間に、日常が日常ではなくなりました。それまでチャランポランに生きていましたが、兄の死をきっかけに、これではいけないと思い、死に物狂いで勉強をしました。国家資格を二つ取ると、整骨院に就職をして、そこで技術を学びました」
 「数年後、独立をして自分の整骨院を持つときには、兄の大事な大事な生命保険のお金を使わせてもらったのです。いまこの会社があるのは、亡くなった兄のおかげなのです」
 「なので、私は計画書の中にも、社員の皆さんにも「お客様の健康のために」としつこく言うし、働いてくれる社員の皆さんも幸福にしたいのです」宇都さんは泣きながら語りかけた。
 立食の懇親会の中締め、コップを持っている人もいたし、お皿を持っている人もいた。しかし、皆それをテーブルの上に置くと全員が泣き始めた。私は震えた。 一体感が会場を包んでいた。「この会社は大きくなる」と確信した瞬間だった。
 それから数年が経ち、宇都さんは順調に店舗数を伸ばしていった。宇都さんの物語が、いままさに始まった。
 初代には創業時の物語がある。
 二代目にはそれを伝える義務がある。
 二代目は、まず自分の役割を知ること。そうすれば、自分の物語はいずれ見えてくる。人間は弱い生き物だから、自分なりの「芯」を持っていないと負ける時もある。だから芯=役割を知ることは非常に重要なことなのだ。
 国連気候変動サミットにてグレタ・トゥーンベリさんが、「私はあなたたちを絶対に許さない」とスピーチをして、大人たちへの怒りをあらわにした。彼女の「芯」は非常に強い。シンプルで正確だ。
 政治も、宗教も、学問も、経営も全ては何のために在るのか。それは「人々が幸福に暮らすため」これ以外にはない。全ての善意の結果がいまであるなら、受け入れるしかないと私は思う。与えられた環境の中で自分のベストを尽くすしかない。
 自分の物語は終わってみるまでわからない。それは他人が評価するものであって、決して自分が語るものでもない。次代に恥じない自分でありたいと常々思う。
※本コラムは2019年11月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

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