※本コラムは2024年10月の繁栄への着眼点を掲載したものです。
出張が多いので、新幹線、飛行機、ともによく利用する。心配性なので早めの行動を心掛けているが、新幹線の車内清掃をホームから眺めていると、その速さ、ごみ一つ落ちていない清掃ぶりにはいつも感心させられる。
JR東日本では、「JR東日本テクノハートTESSEI」という会社が車内清掃をしている。お客様が降車されると素早く車内に乗り込み各人の役割分担をこなしていく。車両数は17車両、席数は約1,000席だ。それを僅か7分で清掃を完了させるのだ。清掃終了後には、ドアの前に整列し、号令とともにお辞儀をして颯爽と去っていく。その姿は、「7分間の奇跡」と呼ばれ海外のニュースでも特集が組まれるほどだ。
さらに驚かされるのは、その「7分間の奇跡」を実現させている原動力が、「社員一人ひとりのやりがい」から生まれているということである。そう言うと、「なんだ、精神論か」などと言う人もいるかもしれない。しかし、これは、「お客様に見られていることが、一般社員の行動をどう変えるか」というハーバード・ビジネススクールの研究の題材にも取り上げられているのだ。
実学の門セミナーで福岡に行った時のANAの機内での出来事だ。着陸態勢に入る前にCAさんが背広の上着を持ってきてくれた。その時に、背広の胸につけていた「無敵」と書かれたバッチを見て、「素敵なバッチですね」と声をかけてきてくれた。このバッチの字は、名古屋でラジオのパーソナリティーをやられている書道家の矢野きよ実さんが書いたものだ。名古屋のお客様の発表会で矢野さんが基調講演された際にいただいた。
矢野さんは、幼くして両親を亡くした。その想いを「寂しい」という書にしてコンテストに出した。その時にたまたま審査員が自分の前で審査をするシーンに出くわした。一人の審査員は、見るなり、「ああ、これはダメだ。寂しすぎる」と言ったという。言葉には力が宿るのだ。それから力強いメッセージをしたためるようになった。それを聴いてから、全国経営者セミナー、実学の門、講演の際は「無敵」と書かれたバッチを付けるようにしている。
私は、CAさんの時間を奪ってはいけないと、「名古屋の書道家の矢野きよ実さんが書かれたもので、明日、福岡で大きな仕事があるので、言を担いで付けているんです」と短く簡単にだけ返答した。すると彼女は、数分後に私の席まで戻ってきてこう言った。「牟田様、明日、福岡で大きな仕事があるということで、お仕事前に使えそうなものをお持ちしました。宜しければこちらをどうぞお使いください」と言ってANAの青い袋を差し出してきた。その上には手紙が乗っていた。
牟田様
今日もANAをご利用いただき有難うございます。明日が大切なお仕事ということで、何か少しでもお力になれることがあればと、ほんの気持ちですが、この富士山とともに素敵なご活躍となりますよう心よりお祈り申し上げます。※富士山の絵葉書に書かれていた
牟田様の大切なご予定にお選びいただき、私どもも身の引き締まる思いです。どうぞお気をつけてお出かけください。
NH255 CREW一同
飛行機を降りる際も、「牟田様行ってらっしゃいませ」と笑顔で一言をいただいた。青い袋の中には、アイマスク、のど飴、マウスウォッシュなどが入っていた。こういうことをされて嬉しくない者はいないはずだ。こういった社員が増えれば会社は必ず強くなる。
優れた商品・サービスは、社員一人ひとりの誇りとやりがいから生まれるものである。人間一人でできることは限られているが、全員分の力を結集させれば、それが会社の売り上げになるのだ。単純に人の差がそのまま会社の差となる。それを忘れてはいけない。





























