menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第64回 他力本願で独自の道を歩むドラッグストア「クスリのアオキ」 

深読み企業分析

今や食品流通、日用雑貨流通において、圧倒的に存在感を高めている業態がドラッグストア業界である。しかも他の業種にとって厄介なのは、ドラッグストアは単一業態ではなく様々なバリエーションを持つことである。食品ディスカウンターとして急拡大しているコスモス薬品があれば、コンビニをターゲットに展開するウエルシアもある。様々なパターンがある中で、食品スーパーをターゲットに展開する企業が北陸を地盤とするクスリのアオキである。
 
ドラッグストアはかつて都市部の駅前立地でクスリと化粧品、日用雑貨を販売するマツモトキヨシに代表されるパターンが主流であった。しかし、この10数年でそのパターンは成熟化し、ドラッグストアもここまでかと思われた時期もあった。しかし、そのドラッグストアが郊外展開し、そこに加工食品を強化することで、ひとつの成長パターンを見出した。
 
典型的には九州のコスモス薬品があるが、加工食品卸と取引することで、手元に積み上がるキャッシュを原資に無借金で高速大量出店を可能とした。これは、加工食品卸と取引することで、売掛金+在庫-買掛金がマイナスとなり、売上増に伴ってキャッシュが手元に増えるメリットを活用したものである。
 
コスモス薬品はこのキャッシュを元手に大量出店を行い、九州から出発してすでに東海地方にまで展開エリアを広げている。ただし、すでに食品売上が55%に達して、これまでのような高速出店はやや難しくなりつつある。同業の多くも加工食品を強化することで、潤沢になるキャッシュを元手に高速出店しているが、コスモス薬品ほど極端に加工食品にシフトした会社は少ない。
 
その後の展開パターンは様々であるが、その中で極めて独自色の強い展開をしているのが北陸のクスリのアオキである。同社もすでに食品売上は30%となっているが、このまま加工食品ウエイトを高めるつもりはない。むしろ、生鮮3品+中食を強化して、食品スーパーの牙城を攻めようというスタンスである。
 
ただし、同社の賢いところは、自らやっても高度化が難しい、鮮魚、精肉、惣菜は外部の事業者に任せる方策を採っていることである。つまり、あくまでも薬品、化粧品、日用雑貨で稼ごうという戦略である。
 
同社は過去10年間で売上高を5.0倍にし、営業利益を7.6倍にしたが、その余勢をかって今期も16.1%増収、10.6%営業増益を目指している。
 

fukayomi64no1.jpg

 
有賀の眼
 
餅は餅屋ではないが、自分の専門分野でない世界で勝ち残ろうとするのは無謀であるが、意外とそのようなチャレンジをする会社は多い。しかし、同社は食品スーパーの業態を模倣するにあたって、集客手段に関しては他力本願をうまく活用している。要は集客力を高めて、ドラッグストアが得意とする収益性の高い薬品と化粧品で稼ごうというのが究極の目的であるから、その目的に最も合致する方式を選べばいいことになる。
 
来店動機を高める方策としては、まずは加工食品の安売りがある。これは、加工食品卸売業に任せれば、他社とそん色のない品揃えができる。ただし、他業態と比べれば、販管費率が低いことから、食品の安売りが可能であり、食品で集客して、薬品、化粧品で稼ぐというパターンである。
 
そこに、調剤薬局も併設しているが、これは同社の専門分野である。しかも、調剤薬局は病院の目の前にある専門企業が多い。これがいわゆる門前薬局であるが、厚労省の方針で門前薬局は徐々に不利な立場に移行している。その点、同社は店内薬局であり、薬価改正の度に相対的な優位性が増している。
 
食品をさらに強化する方策として、生鮮3品を強化しているが、ここで儲けるのではなく、ここはあくまで集客目的とするために、コンセで専門業の他社を導入する方策をとる。
 
このように自己の強みと弱み、そしてビジネスモデルの効率性を考えて展開することは簡単そうで難しいものであり、かなり参考になるのではないかと思われる。顧客サイドに立てば、効率のいいワンストップショッピングが最も便利なはずであり、あとは品揃えと価格で及第点を取ればいいことになる。集客で困っている小売業は改めてこの点を考えてみてはどうだろうか。

第63回 高原価率、高効率で高収益を追求する経営「スシローグローバルホールディングス」前のページ

第65回 田舎では田舎のやり方を極める「ハローズ」次のページ

JMCAおすすめ商品・サービスopen_in_new

関連セミナー・商品

  1. 社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

    セミナー

    社長のための「お金の授業」定期受講お申込みページ

  2. 《最新刊》有賀泰夫「2026年からの株式市場の行方と有望企業」

    音声・映像

    《最新刊》有賀泰夫「2026年からの株式市場の行方と有望企業」

  3. 有賀泰夫「お金の授業 為替変動を活用した投資銘柄の選び方」

    音声・映像

    有賀泰夫「お金の授業 為替変動を活用した投資銘柄の選び方」

関連記事

  1. 第25回 今後ますます重要になる、自らの強みの再考で収益性を高めるという考え方「ロックフィールド」

  2. 第31回 八ヶ岳連峰経営で着実に成長する食品スーパー「アークス」

  3. 第133回 頑固に押し通した価格維持の姿勢が花開く(サイゼリヤ)

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2025年12月17日号)

  2. 第九十一話 客層を変えて事業を伸ばしている理由は、これらの顧客体験の仕組みがあるからです

  3. 第232話 「値上げ」も出来ずに何が経営者か!

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 人間学・古典

    第117講 「論語その17」 義を見てせざるは、勇なきなり。
  2. マネジメント

    交渉力を備えよ(30) チャンスを見極めたら躊躇しない
  3. 経済・株式・資産

    第74回「出版社活況の恩恵をフルに享受する電子書籍卸」メディアドゥホールディング...
  4. 社員教育・営業

    第41話 成長課題 管理職の部下育成術(41)
  5. ブランド

    基準設定のすすめ
keyboard_arrow_up