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◆九州料理専門店 新橋 有薫酒蔵◆
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『高校ノート』が誕生したきっかけは、1987年に久留米大学附設高校出身の常連客の一人が出身校の寄せ書き用のノートを作ったことだという。そのノートを見て、他の九州出身のお客も、「あそこの高校があるのに、なぜ、うちの高校がない?」といった調子で少しずつ増え、やがて東京をはじめ他の地域の高校に広がっていったそうだ。『高校ノート』をつくっても、費用は一切かからない。
ノートは作成された順番に並んでいるので、若い番号の学校は一種のステイタスだ。閲覧できるノートは、基本的に母校のノートのみ。所定の位置にノートがなければ、店内に高校のOBがいることになる。双方のお客に確認して、引き合わせることは週に1~2回はあるという。また、ノートを通じて長年消息不明だった友人が見つかることもあるし、ノートに悩みを書いたことがきっかけで、新しい交流が始まり、新たな就職先が決まった人もいるという。
こんなドラマチックな出会いがなくてもノートを見るだけで十分に楽しい。「こんなあだ名の先生、いたいた!」「あのラーメン屋、よく行ったな」…。ノートをパラパラめくるうちに、どの客も高校時代に引き戻され、無邪気な笑顔に変わっていくという。こんな気持ちを味わうために、大勢の客が同店を訪れるわけだ。
もちろん、『高校ノート』がコミュニティの核として機能するためには、一定の秩序が必要だ。かつてお客の自由に任せていたら、不快感を与える書き込みをするケースが出てきた。そこで、現在は次のようなルールを設けている。まず、新たに高校ノートをつくる場合、第1ページ目に書き込むお客は、書き終えるまで酒を飲んではいけない。第1ページ目は、母校の顔であり、その後に書き込むOB達の手本になる大切なページだから、それなりの心構えで書いて欲しいというわけだ。書き終えたら、女将の松永洋子さんのチェックを受けて了承を得られたら晴れて母校の『高校ノート』が誕生する。もう一つのルールは、ノートに書き入れたお客は全員、名刺を貼らなくてはならないことだ。それは文責をはっきりさせて荒れた書き込みを防ぐためであり、また、連絡を取り合うためのものでもある。
松永さんは、新しく書き込まれたノートを自宅に持ち帰り、まず、ノートを挟み込むためのファイルをつくる。次に、高校の写真をネットで検索して印刷し、それをバランスよくノートに貼り、同店HPの高校検索サイトにアップしてできあがりだ。ここまでの作業でだいたい1時間くらいかかり、最後にお客に対してそのノートが何番になったかを伝えるハガキを書いて完了する。数年前に松永さんが病気で倒れたこともあり、現在は、新規に受け付けるノートは1日3冊までに制限しているという。
全ての作業は松永さん一人で手がけている。だから、ノートのコンセプトがはっきりするわけだ。もちろん、松永さんの労力は誰でも分かるので、管理費用の徴収を勧めるお客や、みんなの分を自分が負担すると申し出るお客は少なくない。ところが、費用を徴収すれば、「自分のわがまま」を通せなくなるという理由で、松永さんは、そうした申し出を全て断っている。同じ理由で他のスタッフにもノートの管理を手伝わせない。もっとも、もし、わがままを通すのをやめ、多様な人の意見を聞けば、結果としてノートのコンセプトはぶれ、魅力は半減していくだろう。
現在は、世界中の食材が自由に入ってくるし、おいしい料理があるのは当たり前だ。こうした時代には、マーケティングで人を呼ぶのは難しい。客にこびない『高校ノート』のような独自のこだわりを持つ店が、豊かな時代には支持されるのだろう。(カデナクリエイト/竹内三保子)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
九州料理専門店『新橋 有薫酒蔵』
http://www.shinbashi-yukun.com/
JR新橋駅日比谷口から徒歩2分 銀座線新橋駅7番出口より1分 |