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社長業

第32回 いままでの延長線から脱線してみる

繁栄への着眼点 牟田太陽

※本コラムは2021年11月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

 最近、学生向けに講演することも増えてきた。コロナ禍で皆大変ではあるが、学生も大変だ。せっかく入った大学、明るいキャンパスライフを夢見ていたことだろう。自由な時間を削り受験勉強をして、入学してみたら待っていたのはオンライン授業だった。学校に通えない。友達もできない。部活やサークルも自粛。就活などの情報交換もできない。将来に対してストレスを抱える者が多い。

 中村天風先生は、「私は、よく学生に『おまえ、将来何になるの』と聞くと『まだ決めてません』と答える人がいるでしょう。あつかましいよ。よくもまぁ、あつかましく、決めないで生きていられると思うんだけども、そういう人が多いんだよ」
「偉大な発明、偉大な発見、あらゆるすべてのこの地球上における人類の進化、向上は、夢をもった人間がこれを現実にし、そしてその結果、人間の世界に良い方向を与えているじゃないか」とよく言った。

 これはちょっと極端ではあるが、現代に中村天風先生がいらっしゃったらきっと言葉は違ったはずだ。それを私なりに現代風に通訳をして学生に伝えることがある。

 業種も業態も昔とは比べ物にならないほど多岐にわたり、その中から自分の本当にやりたいことを見つけるのは至難の業だろう。なりたいものがわからない。だから大学に来たのだろう。やりたいことがあるなら大学など行かずにそれをやればいい。

 自分もそうだった。ましてや、いまは入社3年での離職率は3割以上だ。キャリアに迷走することがあっていい。そんなことよりも重要なことがある。それは確固たる「自分自身を持つこと」だ。自分自身とは熱量だ。

 豊かになった日本では、若者は自分のやりたい仕事だけを「仕事」と定義して、他の仕事には見向きもしない。そして就活に失敗すると、「自分が正しく評価されていない」「自分は必要とされてない」「こんな会社に入りたかったのではない」「この仕事をやるためにこの会社に入ったのではない」と冷めたことを言う。そんな冷めている人間こそ死んでいるのと同じではないか。

 生きているとは熱を発することだからだ。文句を言う前に置かれている自分の状況の中でベストを尽くすしかない。とにかく目の前のことに全力で当たれば次が見えてくる。それすらしない人がいる。自分の可能性を放棄している。

 経営も同じだ。新事業だ、新商品だ、やらない言い訳ばかりしていないだろうか。

 多角化経営をされている長野のアスク工業の高橋社長から聞いたことがある。先代のころから多角化に取り組んでいたアスク工業は、先代時代に出した新事業のアイデアは400事業、その中でスタートしたのは200事業、残ったのは6事業だったそうだ。そこまでやり続けているから「新事業は失敗するものだ。それでもやり続けなくてはいけない」という社風が根付いている。

 全国経営者セミナーにて、「『朝起きてから寝るまで本業に真面目に打ち込んでいる』こういう社長は何点ですか」とスター精密の佐藤肇会長は言った。それは50点だと。朝から晩まで真面目に働くことは悪いことではない。しかし、社長の仕事はそれだけでは務まらない。将来の事業の種を探すことをしなければ残りの50点は埋まらない。何も新しいことに挑戦しない社長は50点なのだ。社長には脱線する勇気も必要なときがある。

※本コラムは2021年11月の繁栄への着眼点を掲載したものです。


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