写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産 (http://www.hituji.jp/)
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●「シェアハウス」が増えている
近年、多くの不動産会社が、「シェアハウス」の運営に乗り出している。
シェアハウスとは、恋人でも親戚でもない他人と暮らすことを目的とした、共同住宅のこと。一人ひとりの個室はあるが、リビングやキッチン、お風呂、トイレなどは共同で利用する。
シェアハウスに住むメリットはさまざまだ。他の入居者と親しくなれば一人暮らしの寂しさが解消できるし、一人では用意しにくい大きなテレビやお風呂、広いリビングが利用できる。また、大震災などが起こった時に頼れる、「近所の他人」も確保できるわけだ。
さらに、最近では、プラスアルファの魅力を売りにした物件も増えている。たとえば、「菜園が併設されていて、農家の指導を受けながらワイワイと農業ができる」「フリークライミングの練習場や、屋上にテントがはれるスペースがある」といった具合だ。こうした物件はたいがい満室になっている。
●シングルマザーを対象にしたシェアハウス
そんななか、新たな方向性を打ち出したシェアハウスが、今年2012年3月にお目見えした。神奈川県川崎市の「ペアレンディングホーム高津」だ。
このシェアハウスの最大の特徴は、単身者ではなく、「シングルマザーの親子」を対象にしていることである。
この物件を運営する(株)ストーンズの細山勝紀社長は、オープンの経緯をこう話す。
「発端は、女性社員が、子供の急病や保育園のお迎えなどで申し訳なさそうに帰る姿をよく目にしていたこと。他の社員がフォローしてくれるのを見て、『迷惑をかけている』と責任を感じ、肩身の狭い思いをする。とくに夫の助けが借りられないシングルマザーは、そうした場面が多いはずです。こうした心理的・物理的な負担を、『シングルマザーが共同生活し、保育園の出迎えや食事の用意などを助け合うシェアハウス』があれば、少しは軽減できるのでは? と考えました」
最寄り駅から徒歩4分の位置にある、ビルの3階部分・約200平方メートルが、住居スペース。約6畳の寝室が8つと、約30畳のリビング・ダイニング、2つのキッチンやトイレ、浴室とシャワー室などを備えている。
目玉は、「チャイルドケア」サービスだ。保育園を経営する(有)アビリティに協力を依頼。週2回、17時~21時に保育スタッフが出向き、親子の夕食をつくったり、子供の遊び相手や宿題のケアをする。母親は時間に余裕ができ、自室で残務処理をしたり、資格の勉強をしたりできるわけだ。
さらに、入居者同士で話し合い、保育園の出迎えや食事の用意などを分担すれば、より育児の負担は軽くなる。
月々の家賃は、チャイルドケアのサービス料や共益費込で、9万円~9万5000円だ。
●互いに助け合え、気持ちに余裕
3月にオープンすると、約2カ月間で、5世帯11人が入居した。ちなみに年齢構成は、母が20代後半から30代半ば、子供は1~3歳が3人、小学生が3人だ。
入居者からの反応はどうか。細山社長は「驚くほど好評」だという。
「皆さん、口を揃えるのは、『時間だけでなく、気持ちに余裕ができた』こと。以前は、仕事から帰ると、家では子どもと二人きり。逃げ場がなく、虐待しかねなかった、という人もいました。しかし、ここに来てからは、他の子供が遊び相手になってくれるし、チャイルドケアもあるので、自宅でホッと一息をつける。また、入居者が全員シングルマザーなので、同じ悩みを共有した上で相談しあえます。これも、非常に大きいようです」
その他にも、「他のお母さんのしつけを見て、参考にできる」「子どもたちも、他のお母さんや子どもたちと日常的に接することで、寂しくないし、社交性が身につく」など良いことづくめだという。
「今のところ、入居者同士のいさかいもありません。それどころか、毎日、リビングで、子育てや仕事のことをずっと相談し合っている。最近では、互いに刺激し合うために、『ファイナンシャルプランナー2級を取得』といった各自の目標をリビングに貼り出していました。当初の予想以上のことが起こっています」
そう話す細山社長だが、一方で「今までシングルマザーを対象としたシェアハウスがなかったのが不思議」とも話す。利用者層をズラすことで新たな客層が見つかることはよくあることだが、多くの事業者は「シェアハウスは単身者が住むもの」「若い人が住むもの」といった固定概念に縛られていたのだろう。「自社商品の客層はこの層」という思い込みがないかどうか、点検してみると、新たなアイデアが生まれるかもしれない。
(カデナクリエイト/杉山直隆)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
ペアレンディングホーム高津
神奈川県川崎市高津区
http://www.s-affitto.co.jp/PH_takatsu.html
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