新しい価値観をどんどん取り入れていくことができるのが若者たち。若者たちの中でも、トレンドを握り消費を動かすパワーを秘めた女性たちの《インサイト》に注目すると、新しいヒットを創るヒントが見えてくる!
●次のヒットを創るヒントは若者のインサイト
「恋愛と結婚」は消費に大きく関係します。近年では結婚しても結婚式は挙げない「ナシ婚」を選択する人も増えている一方で、「ナシ婚」のカップルでも、ドレスや和装で写真だけ撮影する「フォトウエディング」は取り入れるということもあります。親族や親しい人だけを招く少人数婚や、披露宴と2次会の中間のスタイルを取る「1.5次会」形式など、従来の型にはまらない結婚式の形も珍しくなくなりました。これまで結婚式をしなかった同性カップルが、結婚式を挙げるようになったという変化も見られます。つまり、トレンドは変化しながら、「消費」は確実に動きつづけているのです。
実際に、2013年以降続く「婚姻件数の減少」が要因となって、現在約2.5兆円のブライダル関連市場の規模は縮小傾向にありますが、そんな業界の中でも売り上げを順調に伸ばしている企業があるのです。消費を刺激するためには「インサイト」を理解することが重要です。マーケティングにおける「インサイト」とは、消費者自身がまだ気づいていなかったり言語化できていなかったりする潜在的なニーズのこと。
「伸びている企業」はインサイトのつき方が秀逸なのです。伸びている企業が刺激している消費者インサイトは以下の2つです。
①型にはまった結婚式でなく、自分で納得して作りたい
②「結婚式」を点ではなく線で考えたい
一つずつ見ていきたいと思います!
●「#プレ花嫁」「#卒花嫁」調べる手段が豊富に
まず①です。昭和時代のブライダル関連市場の環境との最大の違いは、インターネットやSNSの普及に伴ってアクセスできる情報の量が圧倒的に増えたこと。ネット上では昔は知りえなかった見積もりの詳細な内容がオープンになり、招待者本人と参列者の両方からの口コミも日々投稿されるようになりました。また、結婚式を挙げた花嫁自身によるインスタグラムへの写真や情報の投稿が、ここ近年で活性化しています。
例えば結婚式を控えている花嫁が投稿する「#プレ花嫁」というハッシュタグ(※)がつけられた写真投稿は581万件。「#海外旅行」の580万件を超える投稿数になっています。他にも式を終えた花嫁が投稿する「#卒花嫁」(151万件)、例えば式場アニヴェルセルの「#アニ嫁」(8.5万件)のように特定の式場で結婚式を挙げる人同士が使うハッシュタグや、例えば5月30日に結婚式を挙げる人は「♯チーム0530」といったように、同じ日に結婚式を挙げる人同士で使うハッシュタグなど、同じ情報を必要とする人同士が情報交換をしやすくなってきているのです。(投稿件数は、2020年4月時点)
(※ハッシュタグとは… で投稿する中でキーワードを分類するラベルとして使われる半角のシャープ「#」がついたキーワードのこと。)
結婚式に参列する機会が減っていても、情報は豊富に手に入れやすくなる中で、令和の「プレ花嫁」たちは「型にはまった演出」をやらないという選択をすることも珍しくなくなってきています。例えば、キャンドルサービスを無しにして、その代わりに卓ごとの写真撮影に変更することが流行しています。独身女性しか参加できないブーケトスは無しにして老若男女問わず参加できる「プレゼントトス」に変更する、ケーキカットは取りいれたくなければ取り入れないなど、自分らしい結婚式の形を追求するようになってきています。お金をかけたいポイントは、参列者への「もてなし」と、自分に残る「写真・動画」です。
そんな環境の中で伸びているブライダル企業は、従前の結婚式の「当たり前」にとらわれず、オリジナルの結婚式を作りたい令和女子の希望をかなえられる柔軟性や提案力を上げるための工夫をこらしています。見積もりがすべて公開されていても怖くない、納得性の高い説明ができるということも特徴です。
●自分で作りたいからこそ、ハンドメイド市場にもチャンス
多くの人にとって「初めて」の買い物であるが故に分からないことが多く、オリジナルを作りにくかった結婚式は、今や自分で情報を集めて、自分で好きなものを集めて、自分でコンテンツを決めやすくなってきています。花嫁自身によるDIYも活発で、ハンドメイド(手作り)アイテムを購入できるアプリ「Creema」や「minne」などで結婚式関連アイテムを入手するという消費動向も活発です。席次表や料理メニューなどのペーパーアイテムを自作し、キンコーズなどの印刷サービスを使って印刷するという消費動向も活発に見られます。
DIYアイテム例①「木製のチップで寄せ書きを集める芳名帳」
DIYアイテム例②「紙袋ではない、引き出物エコバック」
DIYアイテム例③「席次表・メニュー入りのプロフィールブック」
●「キャリアと結婚」は同時並行が当たり前の時代へ
続いて②です。平均初婚年齢が上がり続けており、未婚化・晩婚化が進んでいると言われています。その一方で、「社会人2~4年目の25歳前後で早婚・出産する」ことを望む10~20代女性が増加する兆しが見られていることも見過ごせないトレンドです。
今から30年ほど前の「昭和女子」との意識の最大の違いは、「令和女子」は寿退社をプランに入れていないことです。人生100年時代と言われ、定年退職年齢は引き上げられ、年金問題などが取り沙汰されるという時代背景の中で、令和女子たちの思い描くキャリアの時系列は「長期型」にならざるをえなくなりました。かつてのように寿退社をして専業主婦になろうという女子は減り、働くことに対してポジティブなのかネガティブなのかに関係なく「一生、長く働き続けなければならない」ということを意識するようになります。男性が家事や育児に参加することも当たり前という価値観も浸透し始め、晩婚化が進む中で不妊治療の情報が一般的に認知されるようになったことも、早婚化のプランを促していきます。
かくして令和女子の人生計画の選択肢に「計画的で戦略的な早婚」が加わっていきます。つまり「結婚」は点ではなく、人生計画全体を設計する線で考えるようになっているのです。結婚と出産を前倒しでクリアして、夫とは高めあいながら、復帰して20代後半~30代で子育てをしながら同時進行でキャリアアップも諦めないという人生計画をたてるようになったのです。
●結婚関連業界のLTVの長期化
結婚が早くなるということは、ライフ・タイム・バリュー(顧客生涯価値)が長くなるということです。全国にウエディング施設を展開しているブライダル・プロデュース社では、婚礼の後に参加できる「サンクスパーティ」やクリスマスイベント、記念日のプロデュースなどのサービスの他、母の日のプレゼントの販売、引出菓子に使われるオリジナルの菓子ブランド「パブロフ」を、仕事などの手土産として購入できる銀座・横浜での店舗展開など、婚礼後も続く顧客との関係性を上手にデザインしています。
新婚旅行市場やジュエリー市場がシュリンクしているように、一度に消費するというモチベーションは下がっています。ですが、大切な節目の思い出だからこそ、一生付き合っていけると嬉しいというインサイトは見逃せません。
●終わりに
今回のインサイトを使って、売れる商品を創るためのポイントは2つです。
①型にはまった結婚式でなく、自分で納得して作りたいからこそ、オリジナルを実現させる提案力を上げる。
②「結婚式」を点ではなく線で考えたいからこそ、一生付き合っていける関係性をデザインする。
新しい時代のインサイトに注目し、潜在的なニーズに応えられる商品を創ると、ヒットが生み出せます。ぜひ、この最新のインサイトを活かしてみてください!
阿佐見綾香(あさみあやか)
電通ギャルラボ研究員。若年女子研究を専門とする。 ストラテジック・プランナーとして、企業や商品・サービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニング、コミュニケーション戦略立案などを担当。 電通ダイバーシティ・ラボ研究員としても、マーケティングの最新トピックであるLGBTに取り組み、みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。
※本コラムは2020年5月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。