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企業内起業を成功させる「新規事業」立上げの鉄則/新規事業家 守屋実氏

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新規事業家 守屋実氏

■守屋実(もりやみのる)氏 新規事業家/守屋実事務所代表
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年にミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室でメディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数事業の立上げおよび売却を実施。2010年に守屋実事務所を設立。新規事業家として活動。ラクスル、ケアプロの立上げに参画、副社長を歴任後、キャディ、シタテル、ガラパゴス、みらい創造機構、日本クラウドキャピタル、日本農業、サウンドファン、VALT JAPAN、セイビー、カタラクシー、ミーミル、あすけん、テックフィード、ドクターメイト、カイテク、MAGIC SHIELDS、フリーランス協会、みんなのコード、おうちにかえろう病院、JAXA、博報堂、リクルートホールディングス、JR東日本スタートアップなどの取締役、顧問、フェローなど、東京医科歯科大学など講師、経産省、内閣府など有識者委員、山东省工业和信息化厅の人工智能高档顾问を歴任。2018年4月ブティックス、5月ラクスルを、2か月連続で上場に導く。近著に「起業は意志が10割」(講談社)、「DXスタートアップ革命」(日本経済新聞出版)、「新しい一歩を踏み出そう! 」(ダイヤモンド社)などがある。Wiki掲載 https://ja.wikipedia.org/wiki/守屋実


※本コラムは、月刊CD経営塾での「企業内起業を成功させる新規事業立ち上げの鉄則/講師 守屋実氏」講話の一部を編集したものです
聞き手:日本経営合理化協会 作間信司


作間
:今日は『起業は意志が10割』という本を出されました、新事業開発の専門家でいらっしゃいます、守屋先生にお話をいただきたいと思います。テーマは、企業内起業を成功させる新規事業の立ち上げの仕事鉄則ということでお話をいただきます。よろしくお願いいたします。

まず、新規事業を専門にやられるという非常に変わったお仕事をしておられるのですが、新規事業はいろんな切り口、ジャンルがあると思うのですが、先生がやっておられるのはどういう新規事業と考えたらよろしいのでしょうか。

守屋氏:分け方はおっしゃる通りいろいろとあると思うんですけど、僕が便宜上分けている分け方は3つに分けています。まず、1個目が「独立起業」というんですかね。スタートアップ、ベンチャーなどいろんな言い方があると思います。自分たちが0から1をつくるぞと。0ベースでみんな人を集めて、さて何をやろうか。みたいな、そういうやつですね。それともう1個が「企業内起業」だと思っていて、これはすでに本業のある会社さんが当然本業というものもライフサイクルがあると思うので、次なる柱をどうしようか。

この2つは全然個性が違うと思っていて、何もないところから0ベースでやるぞというものと、ゆるぎない強靭な本業。もしくは、少しずつ変化して枯れつつある、その兆しが見え始めた中でどうにかせねばならぬとなっているような、これは全然環境が違うと思っています。この独立起業とそういう企業内起業があると思います。もう1個は、そういう法人っぽいものよりも気の合った仲間たちでとか、自分自身の好きとか嫌いとかを含めてというような「週末起業」っぽいものもある。

作間:なるほど。それで実は先生の本を読ませていただいたのですが、面白い表現をされて、「自分のコンセプト」というんですか。え、これ52というんですか? 52=17+21+14という非常に面白い算数式が出ていて、確かに足すと52になると思ったのですが。守屋さんは自分の自己紹介を含めて必ずこの数字を書かれるようなのですが、これを紐解きながら、ご自身の自己紹介を兼ねて、この意味合を教えていただければと思うのですが。

守屋氏:はい、わかりました。この算数が今説明した企業内起業、独立起業、週末起業のそのままの数字だったりするのですね。何を言っているのかというと52=17+21+14 この52は僕の年齢です。52歳を3つの数字で割っているのですが、これは年齢で割っていなくて立ち上げた事業の数で割っています。17が企業内起業の数です。僕は大学を卒業して最初にミスミという会社に就職しているんですけど、そのミスミという会社でアサインされた数であったり、ミスミのあと、ミスミの創業者の田口さんという方と二人で会社をつくっているんですけど、そこの会社でアサインされた数。これが17回くらい辞令が出て、そのどれもが新規事業に関するエトセトラだったということです。これはより正確にいうと実は17事業ではないんですね。

例えば、僕が3回くらい連続で失敗すると、「なんで、おまえはこんなに失敗するんだ」と。「その失敗の共通項を出せ」とか、ときどき当たりが出ると「なんで今回当たったんだ。その当たりの要素を出せ」みたいな話とかがあって、そういう新規事業に関するエトセトラをやっていて、そういうのを全部合わせて17個くらいの新規事業に関する何かしら辞令を受けていつもやっていた。というそんな感じですね。

作間:ミスミさんに入られたのが1992年ですから、今言われたミスミのオーナーの田口さんとエムアウトという会社を独立されるわけですけれど、これが2002年ですから、10年ですね。10年間ですよね。それでこの数、忙しいですね。

守屋氏:ミスミで10年とそのあとのエムアウトで10年と合計2社。20年間で17回アサインされています。ときどきいっぺんに2つとかやらされていたので。でもこれは田口さんの大きな持論みたいなものがあって、当時は2つ大きな持論があったんですけど、まず1つ目がなんで僕がそんなに新規事業をやらされていたかなんですけど、僕がミスミという会社に入社して早々に田口さんに言われたのが「我が国には経理のプロや法務のプロがいる。弁護士が弁護がうまいのは弁護ばっかりやっているからだ」と。

ひるがえって我が国の新規事業を見渡すと、その事業がうまく行ったらその責任者として出て行ってしまうと。二度くらい失敗すると二度とアサインされない。すなわち、我が国の新規事業の現場には常に初心者しかいないんだと。だから、死屍累々なんだと。

作間:うまく行ったらそれをずっと生業にして会社をつくったり、事業部の責任者になるわけですから、いっちょ上がりですもんね。

守屋氏:そうですね。それは駄目だと。うまく行っても、うまく行かなくてもすぐに手放してもう一度つくれと。量稽古せいということを田口さんは言っていたんですね。そうしないと、新規事業のうまさとか知恵とか何もたまらないだろうと。弁護士が1個裁判して、そのまま二度と裁判に来なかったら駄目じゃないのかと。普通に考えろ、みたいな感じのことを田口さんは言われていたんですね。あんたはずっと新規事業をやるんだということを入社早々に言われました。

「頑張ります」みたいな感じでやり始めました。それが1個目の田口さんの持論で、もう1個田口さんがよく言われていたのが、これはだいぶたってからなんですけど、僕が2つくらい事業を持たされていたんですよ。1個が東京の赤羽という場所に高齢者を対象にして訪問で歯医者を経営するという訪問歯科という事業を立ち上げると同時に、新宿の伊勢丹に女性向けのパンツ。ズボンですけども、パンツのショップを構えるという事業を同時に立ち上げなきゃならないということに僕はなったんですね。僕の中でいうと、2つの事業をやっているんですよ。客も違いますし、何もかも違う。

そのときに田口さんに「おまえ、今2つやっていると思っているだろう」という指摘を受けました。もちろん「全然2つやってます」みたいな。それは駄目ということを言われたんですね。なんで駄目なのかというと、例えば「経理の人間が3つの事業の事業部の月次決算をやっているときに、私は3事業やっていると言うか。言わないだろう」と。

「おまえは新規事業のプロなんだ。だから新規事業をやっているだけなんだ。1個しかやっていない」ということを田口さんは言われたわけですね。僕はさすがにそれは立場の違う場所にいる人だったらそれは言えるかもしれないけど、現場でやっているとそれはないという話を言ったんですけど、「無理にでもそう思え」というのが田口さんの指示だったんですね。それが違うと思った瞬間にスケールメリットが出ないと。無理にでも同じだと思えと。そうする中で共通項や違う部分だとか、ありとあらゆる学びをおまえは学び取れみたいな。おまえはプロなんだろうと。というようなことを言われて、とはいえ違うぞと半分思いつつ、まあまあ、そうやって言われるとそうかもと思いつつというので、当時葛藤しながら頑張っていたという感じです。

作間:それが52のうちの17。次の21は?

守屋氏:21は独立起業なんですよ。僕はミスミ10年、田口さんと一緒につくったエムアウトは10年。合計20年間働いた時に、20年目の時に田口さんに「あんた、わしのもとにもう20年いるからそろそろ独立したらどうだ」と言われました。僕自身は田口さんに添い遂げるつもりだったので、「いや、嫌です」ということを言ったんですけども、でも田口さんに言われたらこれはもう独立するんだろうなと思って、そのあと実際に言われてからちょうど100日くらいたった時に、自分で会社をつくって独立をすることになりました。最初に立ち上げた事業がラクスル。印刷をネットで買える会社なんですけども、ECをやっているラクスルやケアプロという指先から血を一滴いただいてそこでその場で健康診断ができるという、これはソーシャルベンチャーなんですけどね。そういうところを同時に立ち上げました。そこから僕の独立起業人生が始まって、今では累積で21個くらいの創業に関わらせてもらっている感じです。

作間:ここで一つ、そういうふうに新規事業というのは、間口、切り口によっていろいろですけど、世の中の本は全部が新規事業という、ひとくくりでキーワードになっていますけれど、企業内で本業があります。もう一つは、こういうコロナもあってというよりも、もともとの事業の寿命というのですか。やはりどうしてもどんなに勢いのいい事業でも時代の流れというか、それによって変わってきますので、じゃあ企業内で新規事業をもう一回つくり上げて、会社を元気にしていくんだというオーナーの方が非常に多いと思います。これからは「企業内起業」そちらのほうに焦点を絞ってお話を伺いたいなと思います。

先ほど言われて、切り口の一つはうまく行った人はそれが本業になってしまう。2回失敗すると、申し訳ない言い方ですけど、あいつは駄目だという話になってうまく行かないと。でも、そういったのでは今会社をやっておられる経営者からすると、「守屋さん、そんなこと言わないでよ」という話になるわけですから、どういうふうに考えて取り組んで実際に行けばいいのかなというご質問になるんですけれど、どういうふうに考えればよろしいですか?

守屋氏:まず第一に、大前提としてといったほうがいいんですかね。「本業と新規事業は違うのである」というところをちゃんと認識すべきだと思います。頭の中では認識していると思うんですけど、現実問題はそうはなっていないと思います。例えば、本業は基本外さないじゃないですか。例えば、事業計画を立てて100%かもしれないし、0%かもしれないし、1000%かもしれないですといったら、怒られるじゃないですか。当然、例えば95%か105%くらいの間に計画比で着地させたいじゃないですか。ずっとやっているわけですし。だけど、新規事業で立てた通り95%から105%の間に着地するのはそもそもおかしくないですかという。

人事異動も新規事業に対して、例えば僕は10年ひと仕事だと思っているんですね。じゃあ、アサインされたときに10年間でアサインされているかという話になるんですよね。10年間でアサインされていないですよね。だから、そういうのも含めて、ありとあらゆることが本業と新規事業は違うのであると言われているけども、現実問題はもうそこは雑多になっていて、どっちが大事かというと、どっちも大事とは言いながらも本業が崩れたら、そもそも新規事業もなくなるので、結局は本業に引っ張られてくると思うんですね。

すごくわかりやすくいうと、期初は頑張れと言われていました。社内にはいろんな人事があるからぐちゃぐちゃしていて、第二四半期くらいからスピードに乗ってきましたと。でも、下期に入ったら通期の予算達成という大命題が出てきましたと。絞るところ絞るぞと言われましたと。新規事業、蛇口を絞り始めました、みたいな。これだったらわかりやすいシーンで、こういうことは今日も東京のどこかで行われているんじゃないかと思っているような事故だと思うんですね。

こんなことが起きていたら、うまく行かないと思うんですよ。なんでうまく行かないのか。
例えば、車屋さんがいましたと。まったくもって車を作ったこともない人たちが車2(クルマツー)という会社をつくって突っ込んでこようとしましたと。そうしたときに、その車屋さんは思うと思うんですよね。まったくの素人集団がいきなり入ってきて俺らに勝てるわけがないと必ず思うと思うんです。実際、勝てないと思うんですよ。しかも、その車屋さん2という会社は上期の時は頑張るといったんですけど、下期になったらちょっと蛇口を締めるかといって、蛇口を締め始めるわけですね。そんな環境下で絶対に勝てるわけがないじゃないですか。でも、それは逆の立場でやっているんですよね。自社の社員だけで、車屋さんが新たな何かの事業を自社の社員だけでつくって、車の事業の影響を受けて予算を絞っているわけですね。

自分たちにそんな戦い方で挑んできた人がいたとしたら、そんなの絶対負けるわけないと明らかに思っているわけですよね。明らかに思っていて、やられたらそう思うのに自分たちではやっているんですね。

作間:それは確かに本社のルール、本業のルール。

守屋氏:それはもう本業の価値観とかで考えているからだと思うんですね。素朴におかしいと思うんですね。自分は思っているんですよ。そんなので俺らに勝てるわけがないだろうと。車なめんなよと思っているわけですよ。なのに、車屋さんは車メンバーだけで全然違うことをやろうとしているわけですよ。これは立場を変えると絶対わかるはずなんですけども、立場を変えて考えないんですよ。なぜなら、頭の先から足の先まで本業で固まっているので。

作間:ましてやそれが社長で成功体験をガチガチに持っておられると、その鎧はもっと強いですか。

守屋氏:そうですね。同質性が高くなると思うんですよね。例えば、車屋さんだと敵も車屋さんだし、川上も川下も車関係だし、全部が車だから例えば敵の動きもなんとなく察知できるわけじゃないですか。

空気感みたいなものとかがあって。敵なんだけど味方ではないんですけども、情報交換をしていたりとか、なんとなくそういう状況ができているじゃないですか。新規事業はまったく関係のないところになってくるので、そういう同質性にまみれていて、同質性のままを引きずっているとろくなことがないと思うんですよね。

作間:ということは、完璧に本社ならびに今の事業から切り離した形を社長、もしくは経営陣のみんなが同じように、ここはもう全部違うんだといって、どっこいしょと外に出しちゃうくらいのことでやらないと駄目だということですか。

守屋氏:そうですね。外に出すというのは、世の中的には出島(でじま)と呼ばれているかもしれないですけども、そういうのはわざわざダブルコストがかかるじゃないですか。分けて、外に切り分けたりすると。

だから、本当は社内でできるほうがいいと思うんです。出島みたいなのは単なる手段なので。ただ、現実問題は本体の中にそういう新しいものを置くとダブルスタンダードになると思うんですよね。このダブルスタンダードはけっこう許されないことが多くて、さっきも言ったように本業の人は、例えば上場企業だったら四半期や半期とか通期でゴリゴリに数字を追っていくじゃないですか。でも新規事業のメンバーは10年単位で仕事とかするじゃないですか。時間の流れ方の違いとか。本業はそんな失敗なんかしていたら大変じゃないですか。間違っても間違うなという話だと思うんです。
でも、新規事業はなんぼ間違ったかが勝負くらいだと思うんですよ。これでいうと、この2つを人事制度上、本当にダブルスタンダードできますかというと、社内の中にそういうのを置いておくと、いざこざの元だと思うんですよね。

それともう一つ僕は思ったことがあるのですが、どうしても本業が順調であればそんなことは考えないのかもわかりませんけれど、どうも本業が少し最近弱ってきているなと。それとマーケットとのギャップというかズレが生じましたねと。そうしたら、そこの矛盾を解決しなきゃいけないんですけど、それはひょっとしたら本業を一回否定したところに事業チャンスがあることはけっこうあるじゃないですか。それをじゃあ若い部下が指摘できるかというと、「守屋くん、君は誰に向かってしゃべっているんだね」という話になることはありますよね。現実問題、実際にその若手の指摘は間違っているかもしれないじゃないですか。これも難しいですよね。

作間:僕たちも年配になってくると、どうしても現場から少し離れますと。昔は僕たちの考えでよかったかもわからないから、ある程度のポジションだとか、社歴も長くなりましたけれど、今本当にマーケットに近い人、お客さまに近い人は本当に昨日今日入ったバリバリの若手や、30代前半の人のほうが毎日、毎日お客さまに接しているわけですから、彼らからの要求があながちおかしくないよねと。自分のところの会社もちょっとここは変えなきゃねと思っておられることもけっこう多いですよね。

守屋氏:そうですね。あと、少なくとも新規事業をやろうとしているんだったら新規事業のプロを雇うべきだと僕は思うんですね。普通に。すごく当たり前の話なんですけども、新規事業というものをやるときに新規事業をやったことのない人間だけでやるのは危険じゃないですか。でも社内の「なんとかくん、君」っていうふうに、なりますよね。その事業をやるからにはその事業のプロや新規事業のプロとか、それをやるにあたって最適なメンバーがいたほうがいいと思うんですよ。そういう人間を潤沢に雇えないという話は当然わかりますよ。別にそれはわかるんですけども、でもそういう人間を1.0人工取ることができないんだったら、0.3人工でもいいので、それはどうにかして調達してくるべきだと思うんですよ。少なくとも新規事業をやるんだったら新規事業の経験者がいたほうがいいじゃないですか。

作間:そうすると、会社の中では本業から切り離すという考え方が本当にできるかということと、誰に任せて、誰をメンバーシップの中に入れるかというのは、この2つは大きなテーマになりますね。

守屋氏:そうですね。自分自身が独立起業して自腹を切って社長になったら、自分が入ろうとしている業界のプロとかを普通に引っ張ると思うんですね。だけども、なぜか会社で仕事としてやるときには自社の人間だけで、自社の金で、自社の都合に沿ってやろうとすると思うんですよ。これは新規事業と本業がごっちゃになっているんですね。もっと普通に考えたら普通にやると思います。この普通にやるということが本当に難しいみたいで、99%の再現性を持って普通にやらないんですよね。

作間:それと同時にもう一つ、最初に指摘があった、でも新規事業は実際にはそんなに成功確率高くないですよね。それでも結果的に守屋さんが言われる「量稽古」という言葉を使われますけれど、やはり成功も失敗も数多くの現場を踏んで、その量をこなしていかないとそのプロフェッショナルにも成功も手に入ることはできませんよというふうに理解すればよろしいですか。

守屋氏:そうですね。プロという日本語をどう定義するかなんですけど、僕の中でいうとある特定の分野において、想定し得るすべての失敗を経験した人間をプロと呼ぶのが僕の中の定義。ありとあらゆる失敗のパターンを体の中に入れている。プロになるにはそれくらい両稽古していないとプロと言えないと思うんですよね。そこまで来ると初見なのに既視感が生まれると思うんですよ。これは本業の世界ではそういう人がたくさんいるはずなんですよ。その会社にも。何かがあったときに「これはやばいぞ」と古株の人はいうはずなんですよ。

作間:10年前に同じようなことがあったねというやつですね。

守屋氏:はい。だから新人に対して古株の人が指導できると思うんですね。「おまえ、絶対違うから、これは。いいな」みたいなことを言うわけです。そういう人は世の中にいるんですよ。現実問題。ただそれを探すという選択肢がそもそもない。探すというアクションをそもそもしないというのが世の中の現実だと思います。だから、「本業と新規事業は違うのである」という最初の定義がごっちゃになっているんですね。

作間:こっちで言っているほど実は頭と体の中でわかっていないということですね。

守屋氏:そう思います。そのときに先ほどのプロの定義じゃないですけれど、ありとあらゆる失敗を経験している。でも、経験をしていると普通だったら大きな損を出しますからなかなか許されない。それでも新規事業をやっていかないと会社が20年、30年、50年、100年と生きていくことが難しい時代になりましたから。で、あればということで先生は失敗のラインを引くというキーワードで。わかっているんだけど実際これもうめったに見ることはないんですけど。

作間:そうですね。実際にどんなような状況でその失敗のラインを言われることがあるのですか?

守屋氏:僕は撤退の判断はしょっちゅうしたほうがいいと思っているんですよ。なぜかというと、2年後、3年後まで突っ走るだけ突っ走ると、もういまさら引くに引けないとか、ありとあらゆることが重くなると思うんですね。それよりは今月頑張るとここまで行けるはずだよねと。右に道が開けていたらOKなんだけど、左に道が開けていたらよくないから、いったん月初まで戻ろうぜ。こういう細かな関所を設けることが大事。細かな関所だと思うんですよね。戻れないくらい遠くまで行くと戻ったほうがいいんだけど、そのロスがあまりにも大きすぎても戻れないと思うんですよね。

作間:よく言われるサンクコストと言われる分野だと思うのですが、「いまさら引けないよな」という。経営者がよく使うフェーズですよね。

守屋氏:はい。あとそこまで進むとそこの間の道のりが長すぎて、何がどうなってそうなったのかというのが正しくはわからないと思うんですよね。因果律ももうぐちゃぐちゃになってしまう。実際、その間にすごいいろんなことがあったはずです。例えば大企業とかになると極端にいうと担当者が変わっていたりもするので、その時点ですべての物事がゆがんでいたりすると思うんですね。いろんなことが起きると思うので。だったら、それよりはもっと細かく関所を設けて、自らの仮説でいうとこうだよと。それで、松竹梅で、松とか竹だったらいいけど梅だったらもう一回戻ろうぜという、こういう自分たちなりのストーリーを設定して、細かく進んで戻って、進んで、進んでみたいなのを繰り返すことが大事だと思います。

※本コラムは、月刊CD経営塾での講話の一部を編集したものです。聞き手:日本経営合理化協会 作間信司

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