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ビジネス見聞録

第5回 今月のビジネスキーワード「デジタル・トランスフォーメーション」

ビジネス見聞録 経営ニュース

※本コラムは2020年10月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

 クラウド、AI、IoT、VR、3Dプリンターをはじめ、新しいデジタル技術が次々に登場しています。それに伴って、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が盛んに使われるようになりましたが、「今一つ意味がわからない」という声は少なくありません。そこで、DXTコンサルティング株式会社代表取締役の兼安暁さんに、「DXとは何か」「私たちはどのように備えればいいのか」などについてお話を伺いました。


●DXとは何か?

――最近、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉をよく聞くようになりましたが、IT化の一種にも見えます。まずは、DXを、どう理解したらいいのかから教えてください。

 押さえていただきたいポイントは「トランスフォーメーション」という言葉ですね。日本語に訳すと変革とか変質、変容などになりますが、「トランスフォーメーション」は、そんなレベルの変化ではありません。芋虫が蝶やカブトムシに変わるような、劇的に変化することを意味しています。日本語に訳すと、変化の意味が薄まってしまうので、よくわからないということになるのでしょう。
 
 トランスフォーメーションをTではなくXと略すことが気になる人もいるようです。それは、トランスと同じ「横切る」を意味する「cross」がXと略されることからきています。「cross」は、十字架や交差点の意味もあり、その形から「X」と略されるようになったといいます。

 一方のデジタル化は、物理的なものが「0」と「1」の信号に変わることです。すでに、デジタル化が起こっている業界もあります。「カメラ」「ラジカセ」「フィルム」「辞書」「百科事典」「時計」「アルバム」などが、その例です。いずれも、80年代には机の上や本棚などにおいてあったものですが、今は、みんなスマホの中に入ってしまいました。

●デジタル化で何が起こるのか

――スマホをはじめ、これまで漠然とデジタル化の利便性を享受してきましたが、産業界にとっては、デジタル化にはどんな意味があるのでしょうか?

 デジタル化の前と後との違いから考えてみましょう。たとえばPCで使用しているデータをはじめ、スマホに様々な情報をコピーできます。情報をどこかに送る必要が出てくれば、24時間365日、瞬時に送れます。運送会社は不要です。デジタル化によって時間や距離の壁を越えられるようになりました。
 
 用務についてはどうでしょうか。たとえばGoogle翻訳をはじめ、翻訳ソフトの精度は上がり、下訳くらいはできるようになりました。翻訳家に仕事をお願いする時には、昼間に頼むのが礼儀ですが、Google翻訳なら24時間日曜祝日でも、いつでも頼めます。

 コールセンターの中には、音声自動応答装置を設置することによって24時間365日応対しているところはたくさんあります。今では音声だけではなく、チャットボット(テキストでのやりとりをするロボット)も利用されるようになりました。応答できるレベルは、まだまだ限られると思いますが、数年後には、バーチャルアバター、つまり、コンピューターグラフィックで作られた人間が、AIの力で応対できるようになるといわれています。
 
 デジタル技術の特徴の一つは一瞬でコピーできることです。だから、たとえば大量の業務処理が発生した時などには、仕事量に合わせて処理能力をあげられます。工場のラインでも、ソフトウェア化されていれば、瞬時にライン数を増やせます。このように、デジタル化されれば、24時間365日の業務が可能な上に、一瞬にして業務処理能力や生産量を増やせるようになります。

●デジタル化を推し進めたIoTとクラウド

――この10年くらいで、様々な技術が登場しましたが、DXの進展に、もっとも影響を与えたのは、どの技術でしょうか。

 二つあると思います。一つは、IoT「(Internet of Things(モノのインターネット)」です。エンジンや機械をはじめ、世の中にはデジタルデータ化できないものもたくさんあります。そうした物にセンサーをつけることによってインターネットにつなげられるようになりました。
 
 もちろんセンサーをつけたからといってデジタル化されたわけではありませんが、センサーによって、人間がいちいち見に行かなくても、熱くなっているとか、止まってしまったなど、まるで、目の前にあるかのように把握できるようになりました。このように、デジタル空間で、リアルな状態で再現したものを「デジタルツイン(デジタル版双子)」といいます。
 
 さらにIoTで得た情報をAIに分析させれば、壊れるタイミングなどを予測できるようになります。そうなれば、予測に基づいて点検の指示が出せるし、故障の前兆を読み取って修理道具をそろえるように指示す出したりできるようになり、ダウンタイムを減らせます。

 このようにIoTによって、様々なものをインターネットにつないでデジタルツイン化できるようになったので、「できることはすべてデジタル化しましょう」といった考えが広がっていきました。極端にいえば、そうした発想がDXなのです。
 
 二つ目はクラウド。IoT以上に影響が大きかったと思います。クラウドならデータの保存をどうするかなどは一切考えずに、本当に空にぶん投げるようにデータをどんどん放りこめます。イニシャルコスト(初期費用)は結構かかりますが、マージナルコスト(限界費用)はほとんどかかりません。データの処理量を2倍にしても3倍にしても、コストはほとんど同じです。
 
 クラウドが広がる前は、データセンターにサーバーを置いて、そこにデータベースやOSなどをセットアップして、ネットワークにつないだりして、やっと保管したいデータを送ることができました。セットアップに時間がかかるし、データ容量が限られているので、データが増えるたびに、サーバーの増設も必要です。管理もしなければならないので、ランニングコストもかかります。
 
 それに対してクラウドサービスは、数十分、長くても数時間でセットアップできます。容量を気にする必要もありません。そこで、「IoTで得た情報も、業務で発生したデータも、すべてクラウドに入れよう」「クラウドに入れたデータをAIに処理させよう」といった具合に、クラウドの中で、デジタル情報の保管や分析などがすべて完結するようになりました。それが、DXを推進したといえるでしょう。

●DXに注目を集めた経産省DXレポート

――DXは、いつ頃から注目されたのでしょうか。また、注目されるきっかけのようなものはあったのでしょうか。

 Googleトレンドを見る限りでは、日本では2017年くらいから上昇しています。ひとつのきっかけは、このころから、VRやIoT、AI、ロボティクスをはじめ、様々な技術が実用化レベルになってきたことです。それまでデジタル化は、基本的に業務を効率化するための技術だと考えられていました。ITについても、業務をシステム化、あるいはデジタル化するという意味で使われていました。
 
 しかし、新しい技術の登場で、デジタル化は、単なる業務改善ではなく、これまでとは全く違うビジネスモデル、イノベーションを巻き起こす力をもっていることが分かってきました。そこで、DXに対する関心が急速に高まってきたのです。DXの知名度が、さらに上がっていったのは、2018年9月に経済産業省が「DXレポート」を発表したことがきっかけです。経産省は、「DX銘柄」「DX注目企業」を選定するくらいDXに対する関心が高い。
 
 レポートの中で「日本経済の成長・競争力強化のためにDXは不可欠」と述べています。しかし、多くの企業が導入している業務基幹システムは老朽化している上に、取り扱うデータ量は古いシステムでは処理しきれないほど膨大になり、エンジニアの多くは旧システムのメンテナンスに追われます。2025年までにエンジニアの人出不足に陥り、DXへの取り組みができなくなると予想しています。それが「2025年の崖」と呼ばれています。

 そして、今回の新型コロナウィルスの騒ぎで、多くの人がリモートワークを体験したことで、DXの注目度が再びあがりました。

●DXによって消滅する業務

――DXの進展によって、どのように業務がなくなっていくのでしょうか?

 最近の例では、スマホに押されてオリンパスがカメラ市場から撤退しました。また、ミュージシャンはストリーミング配信などの普及に伴ってCDが売れなくなり、コンサートに力を入れるようになりました。デジタル化によって業界自体が消えつつあるという現象は、すでに起こっているわけです。
 
 もっともわかりやすいのは自動車業界でしょう。海外メーカーを中心に、現在、急速にガソリン車から電気自動車へのシフトが起こっています。ひとつの理由は価格の低下でしょう。電気自動車の車両価格は、これまでバッテリーの価格が半分を占めていました。それが、この10年で、半分の価格になりました。その後もバッテリーの価格は下がり続けているので、ガソリン車よりも電気自動車の方が安くなりつつあります。
 
 現状では、まだまだ充電に不安があるので、ガソリン車を選ぶ人が多いのですが、いずれは電気自動車へのシフトが起こることは確かでしょう。ガソリン車の部品点数は、一般に3万点と言われています。沢山の部品が必要だから、自動車メーカーは様々な企業と連携し、結果として多くの雇用を生み出してきました。

 それに対して電気自動車の部品は2300~2500点。ガソリン車のおよそ10分の1です。さらに、3Dプリンターを使えば、部品点数はさらに10分の1に減るといわれています。複雑な形状の部品をつくるためには、これまでは金型でつくったいくつかの部品をねじなどで留めて作ってきました。しかし、3Dプリンターを使えば、複雑なカタチの部品でも、最初から一体化してつくれます。
 
 仮にひとつの部品をひとつの会社でつくっているとすれば、3万社から300社に受注企業数は減るということになります。

●できることからDX化

――中小企業が生き残っていくためには、どのようなことが必要でしょうか。

  まずは、政府が発表しているソサイエティ5.0のような世界が5年か10年後には実現するということを認識しておきましょう。Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります。
 
 一方、これまで日本人や日本企業は、難解な「日本語」という壁に守られていたので、国内マーケットが中心でもなんとかやってこられました。しかし、翻訳、通訳のデジタル技術がさらに進めば、日本語の壁はなくなり、いきなり世界競争に巻きこまれていくでしょう。
 
 そうした時代がやってきた時に、どんな価値を提供できるのか、情報をきちんとつかみ、準備を進めておくことが必要です。注意したいのは、どう取り組むのか。現在の業務を効率化するためのIT化は、単なる延命策でしかありません。IT化によって、いくら早く安く価値を提供できるようになったとしても、ニーズそのものが消えてしまえば意味がなくなります。
 
 DXを考えるためには、身近なところからの取り組みが大切です。たとえばリモートワークをみんなでやってみて、何が足りないのか、どうすれば快適に働けるのかなどを考えれば、そこから新たなビジネスモデルのヒントが得らえるかもしれません。
 
 また、スタートアップの起業家たちと話すことも、DXの未来を想像するために有効でしょう。そうした起業家や起業家予備軍などの意見を聞くためには、ミートアップに参加するとよいでしょう。ミートアップは、一つの分野に興味がある人が集まるイベントです。勉強会方式、フリートーク方式など様々なタイプがあります。DXに関する技術のミートアップもたくさんあり、そうした情報はネット上で告知されています。また、シェアオフィスに頻繁に顔を出して情報収集するのも有効でしょう。若手の社員をつれての参加、あるいは若手に任せてもいいかもしれません。
 

 DXは、いきなり世界に広がるので、業界の様子を見ている余裕はありません。逆に言えば、画期的なビジネスモデルを発見すれば、中小企業もGAFAのように大成長できるチャンスがあるのです。(聞き手 カデナクリエイト/竹内三保子)

兼安 暁(カネヤス サトル)
米国系コンサルティングファーム、ベンチャー企業、一部上場企業を経て、フリーのコンサルタントに。これまでに200以上のDX案件に携わる。2019年5月にDXTコンサルティング株式会社を設立。著書に、『イラスト&図解でわかるDX(デジタルトランスフォーメーション)』『成功するDX、失敗するDX 形だけのデジタル・トランスフォーメーションで滅びる会社、超進化する会社』などがある。

※本コラムは2020年10月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

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