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組織を動かす力(8)人材を育てる

指導者たる者かくあるべし

 「歴史を学べ」と説いた孫権

 紀元三世紀、三国時代中国の一角、呉の孫権は、人材を大事にした。武将のひとりに呂蒙(りょもう)がいる。若くして家を飛び出し、孫権の兄・孫策の軍幕に入り、数々の軍功を上げた。根っからの武人ではあるが、思慮の足りない粗暴な面があった。

 兄の死後に政権を引き継いだ孫権はある時、呂蒙を諭す。「あなたは今、重要な地位にあるが、学問をして知識を広めるべきだ」。たしかに呂蒙は戦いにあけくれ正式な学問などしたことはない。軍営からの報告書も口述筆記させている。むっとして反論する。

 「軍中にあって忙しく、そんな暇はありません」。孫権は説得する。「私だって忙しい。それでも若い頃から本は読んだ。なにも学者になれと言っているんじゃない。先人から学ぶことは多い。学べば必ず得ることはある」。これを機に呂蒙は寝る間も惜しんで史書、兵書を必死に学ぶようになった。

 

 豹変した呂蒙に目を見張る

 時が過ぎ、同じ軍下にいた先輩の魯粛(ろしゅく)は、近ごろ呂蒙が人望を集めていることを聞き、転戦の途中、呂蒙を訪ねた。蜀の関羽への対応をめぐり談論を重ねた。「呉と蜀は今は同盟関係にあるが、やがて裏切る蜀の猛将である関羽を討つならいまだ」と、歴史の教訓をひきながら大局の軍略を説く呂蒙に、聡明な魯粛もたじたじとなる。

 「お前さんは、武略一点ばりと思っていたが、いまや学識も広く、昔の喧嘩っ早いだけの阿蒙(蒙ちゃん)とは見違えるようだ」

 そして、呂蒙は今に伝わる有名な言を吐く。

 「士、別れて三日なれば、即ちまさに刮目(かつもく)して相待つべし」(男というものは、別れて三日のちに会えば進歩しているものだ。目をこすって見直すべきだ。昔の私じゃないよ)

 やがて呂蒙は、知略と先見をもって孫権に献策し、蜀の功臣、関羽を追い詰めて生け捕り、死に追いやる。天下をめぐって競り合う三国の中で、蜀にひいき目に描かれた「小説三国志」のファンにとっては「憎き暴れん坊の呂蒙」であるが、なかなかどうして、努力の人なのである。

 

 優秀な人材とは

 孫権は、若くして逝った武将の呂蒙をしばしば偲んでこう語る。「ちゃんとした大人になってからも積極的に自己の向上を目指す。そうした点では呂蒙に及ぶものはなかろう」。

 史書としての『三国志』を書いた陳寿も評を書き加えている。「呂蒙は、勇敢であるとともにちゃんとした策略を立てることができ、軍略というものがはっきりと分かっていた」。

 優秀な人材というものは、学歴、門地でないのはもちろんのこと、ただ営業成績だけで計れるものものではない。先人に学んで、策略を立てられる者をいう。古今を問わない。

呂蒙も偉いが、暴れん坊に学問を勧め育てた孫権も偉い。

 

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『三国志(五)呉書』陳寿著 裴松之注 中華書局
『正史三国志7』陳寿著 小南一郎訳 ちくま学芸文庫

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