会社はつぶれるようにできている、と言われます。
会社がつぶれるたった一つの原因は、「お金がまわらなくなること」ですが、
キャッシュがたまらない、借金過多の社長には大きく2つの特徴があります。
1つ目の特徴は、「P/L(損益計算書)思考」ということです。
気にするのは、売上と利益。
特に売上しか見ていない、という社長が圧倒的に多いのです。
いわゆる売上至上主義に陥っている会社は、社内で営業マン別に売上高を集計し、
グラフ化し、掲示して、目標未達の営業マンにハッパをかけています。
気にするのは、売上高のみです。
しかしながら、本当は、売上高よりずっと気にしなければならないものが別にあります。
しかし、こういう会社では、絶対に掲示されることはありません。
それは「借入金」です。
この借入金は、現金と違って、決して目にみえることはありません。
そして、意識しなければ、決して減らすことはできないものです。
借入を減らすために、まず、「借入金を減らそう」と思うこと、意識することです。
「借入できるのは、信用がある証拠」「借りられるだけ借りろ」「借りたら返すな」
こう思っているうちは、当たり前の話ですが、絶対に借入金は減らせません。
そもそも、なぜ、会社は借入をするのでしょうか?
借入をするには、3つの理由があります。
1.回収が遅く、支払いが早いから
2.投資をするから
3.マサカの坂に備えて、安心したいから
1.回収が遅く、支払いが早ければ、お金は足らなくなります。
これを短期資金(借入)で賄うのですが、これが「運転資金」と呼ばれるものです。
たとえば、製造業を例にとると、中小企業の場合は、大手企業のサプライヤー(協力業者)である場合が多く、立場で言えば弱いのです。
すると、お金の受け払いに関しても、私たち中小企業にとっては、不利になるよう組み込まれるわけです。
材料仕入や人件費の支払いは翌月末なのに、受取は、〆後翌月末手形で回収、
しかも、その手形のサイトが、90日や120日だったりするわけです。
回収と支払のサイトのバランスが悪すぎるのです。
これでは、売上が増えれば増えるほど、必要な資金量が増え、借入金が膨らんでしまいます。
そこで、皆さんにお考えいただいたいのは、「回収は早く、支払いを遅く」の鉄則です。
「うちは、手形での受け取り、また、サイトは120日が当たり前です。回収を早めることは不可能です。」などと反論されます。果たして本当にそうでしょうか?
わが業界ではそれが当たり前でも、他業界の非常識、ということは結構あります。
回収にしても、不動産賃貸、学習塾、あるいは、建設業でも「前受金」でもらうビジネスは存在します。会員制ビジネスにおける会費、飲食店におけるチケットもそうですが、
「早く回収する」ということを意識すれば、アイデアは生まれてくるはずです。
「どうせ、うちの業界は」と思ってしまえば、アイデアなど出てくることは期待できません。
なお、2024年11月から手形サイトが原則60日以内に短縮されました。
これをきっかけに、日本全体として、サイト短縮化の動きが活発化しています。
また、回収というのは、売掛金だけに限りません。
資金繰りを良くするうえで、欠かせないのが、在庫を圧縮すること、
言い換えれば、在庫を現金化することです。
借入が多い、資金繰りが苦しい会社の特徴として、在庫が多いことも散見されます。
在庫は、原料の仕入、製品の製造、製品の販売と、大きく3つのプロセスがあります。
必要以上に仕入れないこと、必要以上につくりすぎないこと、これが在庫管理の重要なポイントですが、中小企業は、そもそも、この必要量すら把握していない、把握できない会社も多いです。
これは、丁寧に在庫を観察すること、たとえば、実地棚卸を頻繁に(毎月あるいは3カ月ごと)実施すること、在庫に関する情報をデータ化すること、発注業務などをシステム化するなどで、対策を打つしかありません。それと併せて、過剰在庫、不良在庫に関しては、適宜処分することも必要です。
また、在庫が多い根本的な原因は、
1つ目の「売上至上主義」にも通じます。
売上高を追求するあまり、
チャンスロス(機会損失)は絶対なくせ!欠品は悪!
この意識が強いのです。
私は、売り切れの美学を提唱していますが、
世の中どうも、売れ残りの美学が浸透している気がしてなりません。
こういう会社は、売り切れ、欠品になると、
周りからひどく非難されるのです。
だから、多め多めに在庫を仕入れる、というわけです。
経営陣の意識改革が最も必要なのです。
借入をする理由の2つ目は、「投資をするから」です。
私たちも、事業に必要な設備投資、システム投資であれば、積極的に推奨しています。その際は、後述する即時償却(特別償却)を使ってください。
ところが、投資は投資でも、事業に必要な投資ではなく、
株式や債券投資に熱をあげる社長がいらっしゃいます。
こういう社長は、驚くべきことに借金までして投資をするのです。
そして、だいたいこういった投資は、損失になることが多いのです。
本業に関係することならまだしも、本業とは関係ない投資は、
私たちからすれば、投機でありムダです。
社員の前では、経費節減、ムダなものにお金を使うな、といっておきながら、
実は、社長が一番ムダなものにお金を使っている、というのはよくある話です。
私は、投資対象として、最も適しているのは、自分の本業だと考えています。
ROA(総資産経常利益率)10%を目指しましょう、とお話していますが、
このROAは、言い換えると、利回りです。
つまり、会社のすべての資産で、いくらの利益を稼いだか、を表すのが、ROAです。
ROAで10%、それ以上達成できれば、これほど高い利回りの投資はないのです。
そして、借入をする3つ目の理由は「マサカの坂に備えて、安心したいから」です。
私は、現預金は、月商の0.5カ月分あればよいと考えています。
その代わり、資金繰り表を作成し、資金予測を行うこと、そして、当座貸越契約を締結して、いざというときは、銀行から資金を借りられる枠をつくっておくこと、この2点の対策をしておくことです。
こうしたことをせずに、「なんとなく不安だから」という理由で、みなさん借入を行ってしまうのです。
これに対して、「借りられるだけ借りろ」「借りたら返すな」という経営者やコンサルタントがいますが、これは2つの意味で危険です。
1つは、借りられるだけ借りて、現預金と借入金を膨らませたら、総資産が膨らみます。そうなると、自己資本比率をはじめとする、銀行格付けの判断基準となる指標が悪化します。
借入条件が悪くなれば、金利も高くなり、担保を要求されることも出てきます。
特に、昨今、日銀の利上げに伴い、金利は上昇局面にあります。
銀行も、金利をぐっと引きあげやすい状況に来ています。
借入額が膨らむうえに、借入利率もあがれば、銀行に支払う利息額は大きくなります。しかも、今年だけでなく、来年も、その次の年も、ずっと続くのです。
もう1つ危険だと思うのは、手元現金が増えるので、
お金があると勘違いして、財布のひもが緩くなる、ということです。
これは、個人に置き換えても、よくお分かりいただけると思います。
しかしながら、そのお金は、決して自分で生み出したお金ではありません。
銀行から借りているお金なのです。
勘違いして、本当に必要ないものを買う、相手の言い値で交渉せずに買ってしまう、
こういうことを続けていれば、会社のお金はあっという間になくなります。
昨今は、銀行金利も上昇傾向にあります。徐々に金利負担も大きくなります。
そして、あらゆるものの値段があがっているということで、
これまでと同じ数量を買っていても、
あるいは、これまでと同じような投資をしても、
在庫金額は膨らむし、投資金額も増えているのです。
それはつまり、キャッシュ・フローが圧迫されることになるのです。
インフレ時代のいまこそ、手元のキャッシュ・フローを増やし、
銀行に頼らない強い財務体質を、どうかおつくりください。